赤木文庫 一心二かびやく道 04/21
て御名をさくらひめと申十五才に也給ふ□□ことはめうがんたぐひなくしいかくはんげんくらから
ねはおよぶもおよばざりけるもふししたはぬ物こそなかりけれ扨家のしつけんにさゝ
めの大夫其外しよじうけんぞく共君をうやまひ奉る有時長者北の方への給
ふはそもひめ一人持なんしのよつぎあらざれはつね/\申せしごとくならびのこほりくわた
長者のしなんくはたの藤次をやうしとさだめ我ひめと一つになししうげんのきしきを
とゝなふべしされは此年月都清水へさんけいの心ざし有といへ共いたつらに打過ぬしう
けんのつとめなは心にまかせぬ事も有へし御れいのためひめもろ共思ひ立べきはい
かゝあらんと仰けり北の方聞召みづからもさやうに存候はやとく/\との給へは尤然へしと上
下ゆゝしく出立せはや都をさしてぞ 三重上らるゝ都になれは清水にさんけいあつて
けんぜあんをんごせうぜん生ときねんし扨しゆくほうに入給へはちうし立出めづらしの御
さんけいやとさま/\もてなし奉るあきたつふうふひめ君もしばらくをくりとうりうなさ
れける扨其後にひめ君はめのと一人御供にてしゆくぼうを立出爰かしこの花
をながめをとはのたきのをちくるを打ながめふし しはしたゝすみ給ひける所にぢうし
のでししきぶきやうせいげんとてはたち斗の若僧たきのみなかみに只一人立出よも
をながめていたりしがみれは二八斗の上良めのと一人めしつれたゝすみ給ふせいけんほの
かにみるよりも是こそ此比さんけい有したんばの國の人成べし都ひろしと申せ共かゝる上
良よもあらしと思ふ心もみたれつゝはやこいくさと也みるにいよ/\あこがれあすは何共
ならばなれ思ひのすへは石に立いろ やたけ心といさめ共我はかゝるすかたにて人のみるめも』
(一ウ)
はつかしやといろふし 思ひみたれていたりしがあゝあんし出したりもしかさねての事もやとふところよりすゝ
りたんざく取出し一しゆのうたをかき付たきのうへよりおとしけり誠に一念やつうしけんひめ君
のをはしますまのまへに風にふかれておちにけりひめ君是を御らんしやがて取上み給へ
はさもうつくしきしゆせきにて一しゆのうたにかく斗▲みし袖のなみたのたきのしらいと
のたへぬ思ひをむすびとゝめよと匂ひふかくかゝれたりかゝることゝはしり給はずいかにめのと
心ふかきことのはかなぬしはされ共しらね共是をひろひて帰らんと御ふところに入給ひ
やかてかへらせ給ひけりせいけん是をみるよりもひとへに我こひのかなふべきたよりやと思ふ心は
いさめ共猶こひしさはいやましによと我か一めいのあらんかぎりはとひとりことにかきくとき我
しゆくぼうへぞ帰りける是は扨置あきたかふうふの人々はしよぐはんかない本國に立帰りつ
ね/\申合たるくわだのとうしをよびむかへさいあひ今日吉日なれはしうけんをとゝなふへしそれ
/\とやかてつかひぞ立にけるかねてよういの事なれはくわたのとうしはるみつ時のしやうぞく
引つくろいやうぶのまへに出らるゝさま/\のだいの物さん/\九との御さかづきもことおはりあきた
かゑつきかきりなく此うへは我一せきをゆづるぞと父母もろ共よろこびてふしやかて内にそ入給ふ
かくいてひめ君の御へやには其しな/\のかさり物四きおり/\のふうけいの御小袖春はこうは
いふしの色かもふかきおり物に風になひくはと柳さくら色のからきぬや扨又なつのけしきには
うのはなかさね花あやめあきはちくさののべの色ふしきゝやうかるかやをみなへし猶よろこひはかさ
ねきく又はたつたのからにしきもみぢばながるゝ川なみの色をつくしてそめにけるふゆはみと
りの色かへぬくり上とをやままつのゑだごとにつるのあそべる其けしき色/\の御小袖ふしかすをそろへてか』
(二オ)
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