赤木文庫 一心二かびやく道 06/21
けらるゝ扨其後にくわたの藤次一間のくわいらう過行ねや近く成所に何とやらん物すさましく
身のけもよだちふしぎさよと天上をきつとみれは何かはしらずあやしきめうくわさがりしや
りんのごとくまいりたちまちばつときへ跡をみれは心といふ文字あらはれたり是清水のせ
いげんか一心のかやうしるし也此もじさもうつくしきほうしの首とへんじてひめ君のねや近き
みすのまへにさかりてかのおのこをみつけてにつことわらつてそれよりもふしみすの内へぞ入にける
藤次みてあらおそろしの次第かないか成身になればとて命ありてのこと成べしと其夜
にくわだのさとへにげさりしはふしことはり也聞へけるすでに其よもあけけれはひめ君
の御そばちかき人々さしあつまり扨もむこ君其夜に帰らせ給ふこといか成事やらんと
つゝむべき事ならねばやかて父母の御まへに參り此よしかくと申ける父母おとろき是はふしき
のしだいかなたれにても思ひあたる事はなきかといひもはてぬ所へくわたの里よりの御
つかいとて一通のふみ有ひらいてみ給へは二度來るましきとのふんしやう也扨はちからおよは
ず又いか成ものをもむかへ取よのじんこうをふさぐへきはいかゝあらんと仰けり家のおとなさゝめ
の大夫承はり尤かなさいわいいつぞや御やうし相談の御時仰出され候ひしならびの里そのへ
しやうけん殿の御子は君のためにはおいこなればたれ/\と申さんより是を御やうしになされ然へしと申
上る父はゝ御ゑつき有それよびよせよと使をつかはし今や/\と待いたり去程にそのべの兵衛
をぢのゆいせきをゆつりゑんとの使を請やかておいの坂へそ參られける又母悦ひ本よりしたしき中な
れは今より後はそれかしが一子也といはひのきしきをとゝのへおくをさしてそ入給ふすてにしこくにおよひ
しかはそのへくわいらうはるかに過行はあやき物こそみへにけれ心と云もしあらはれ中にてへんして』
(三ウ)
其かたちやつたる僧のすかたとあらはれしをよく/\みれは六こん六しきそなへたるすかたとなるふしき也すさまし
やとみれは其身はちうに立むこのかたを一めみてひめのねやへぞ入にける兵衛是をみてあらおそろし
やとにげさりしはけにことはりとぞ聞へける御めのと女房達又もやむこ君にけさりしとやかて父
母へ有のまゝにぞ申ける父母おどろきしよせんそれかしか存るむね有たれにはよるへからす何者也共
むこにならんといふ物あらはそれをさだめてやうしとしわか一せきをゆづるへしときん國に高ふだを立へし
かた/\いかにと仰けりめん/\承はりふだをしたゝめ一々次第に三重 ふれにけり是は扨置爰につの國
たゝの庄にらう人有其むかしを尋るに大しよくはんかまたりより十二代のばつようたなべ左衛門の
介よしながとてきん中なゝめんの侍也しかさるしさいあつてらう人の身と也今は其名をあらためたなへ
みきのしやうよしなかと申けりひかげ物といひながら其心さし人にすくれふゆふのはけみをこた
らすしていたりしが高ふだのやうすを聞下人を近付やあたんはの國おいの坂に長者有いか成ゆへ
にかむこをとれ共一人もたまらすして皆にげさり今はむこにならんと來る物もなきと聞我ら
う人と也かれがゆいせきのぞみにてはなけれ共ふしんのはらさんためかの物のやうしと成事のやうをたゞ
さは末代のこうきと成へし若一命をうしなふともそれ迄のしゆくごうよと思ひさだめそれよりもたんは
の國へと三重いそきけり國にもなれは門外に立よりあんないこうて内に入るあきたか立出いか成御用やらん
吉長承はりさん候是はあたりを近き所にすまひ仕るらう人たなべみきのぜう吉長と申ものにて候
御高ふたのおもてにまかせ是迄さんして候あきたか聞て扨はさやうに候か見奉れはきりやうこつ
から誠に以我やうしにとりてふそくはあらしさりながら何のやうすはぞんせね共まへ/\よりも來れる人をあし
ためずにげさりぬ其方とゝまり給はゝ我一せきをゆつるべしとの給へは吉長承はりいか様是はひめ』
(四オ)
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