赤木文庫 一心二かびやく道 07/21



君に心をよする物有あるひはいきりやうしりやうのしうしん來つてけんするがそれにおそれてにげ
さる事も候へしさやうのことにも候はゝおそらくはさいたる此太刀其むかしあま國といふかぢ百日きたいて
打たりしつるぎなればいか成けしやうの物とてもおそれをなさぬは候はすぜひにをゐてそれかし
うむのじつふをたゝすべしとつつしんでとそ申けれあき高よこ手を打て扨さやうの事共とはそんぜす
誠に其方の仰のやうにも有へししからばこよひもろ共にひめがねやに立こへ若もふしきの有ならはし
さいをみとゝけ申へしとすでに其日もくれ行ばいざこなたへ/\とてひめ君のねや近きくわいらう
にさしかゝるあんのごとく物すさましき風ふきみのけもよだつ斗成にれいの天上よりあやしき物こそさか
りけれすましてことをよくみれば心というじみへたりけりみきのせう是をみて扨こそそれかしりやう
けんはあたりたるぞとくとみすましためしをたつてとらせんとためらいもなく立よれは心というもしの内
よりかきのくびあらはれ五たいはしやしんのことく也さもすさましきふせいにてひめのねやへいらんとす
るをよしながゑたりと太刀ひんぬいてはつたと切るくび打をとせはくわゑんとなつてうせけるは
ふしおそろしかりける次第也其程にあき高けしやうの次第をみとゞけ是はふしきの次第とてひめ
君を近付扨其方何にても心にかゝる事はなきか有のまゝに申されよひめ君聞召さん候みづ
から思ひ合る事もなしいつそや都清水へもふてし時おとわのたきにてたんざくをひろい帰りし其後
よな/\の夢心に此たんざくのぬしせいすいしの何かしとなのりわかきそうの來りてわれたまくらにか
よふよと夢の内にみる事一夜もかけたる事はなし是より外には心にかゝる事もなく候よし長扨は
うたかふ所なしゑゝ其清水の若僧か一心の通ひ來てかゝるふしきをあらはす也其一心のかよふしるしは
はしめて人めにかゝる時心といふじをあらはしたり是かくれなきせうこ也此しうしんをなためん事何より以て』
(四ウ)

安かるへし先それかし清水に參り我はひめが兄弟とたばかりべつとうにたいめんしかのきゃく僧がきく
所にてひめはむなしく也て候かたのことくのきやうやうを頼申とたばかりなばかのほうしがしうしん二度
來る事あらしとあんしすまし扨あき高どのにいとまをこいふし都をさしてのほらるゝ扨こそむこのか
す九十九人にしやうじゆせす百人めさたまりたるはすへはんじやうのずいさうふしぎ也又め
でたきともなか/\申はかりはなかりけれ
第二
みきのぜうよしなかはけいりやくの其ために都にのほり扨清水へ參りかのしゆくほうへあんないこうて
内に入るぢうし立出是はいづくのたれがしどのにて候やらんよしなが聞てさん候是はたんばの國さいきのくんし
あき高か一子みきのせうよしなりと申す物にて候おやにて候あき高日外さんけいの折ふしそれ
かしがいもふとを召つれ候にかの物いか成しゆくゑんにか候いけんくはんをんきやう三千三百くはんどく
じゆ大くはんおこしちやうぼうどくじゆ仕るににはかにやもふにおかされ程なくむなしく也候此だ
いぐわんじやうじゆせぬをちゝ母かなしみせめてなき跡にて也共是をはたし申さんと此事たのみ奉
り其ために是まで參り候是は御きやうしゆの御ふせ也とおふこんまきぎぬたいにつ
みちうしのまへにぞ出しけるぢうし聞召扨/\きどくの御事ながら父母并に其ほうの御しうたんおし
はかりて候かつうはなき人のごせぼだいの御ためなれは念比に取おこない申べしとちうしはおくに
入給ふよしなかもさしきを立たあんにたかはずくだんのせいけんつゞいてみきのぜうがたもとをひかへさて
のふ其ひめ君はむなしくならせ給ふとやちとしさいくわしくお尋ね申す也いつ比の事やらん
なを/\かたらせ給へやと打しほれてぞ申けるよし長かさねて色をさとり扨はにやくそうはきやつ』
(五オ)


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