赤木文庫 一心二かびやく道 09/21



が事成べしあゝうれしや思ふやうに也たるそずいぶんたばからんと思ひのふ扨々御僧の仰に付て思ひあ
わすること有いもふとにて候物すでにまつこに及び候時何にても思ひ置事なきかと
尋ねたれはいきの下より申けるはいのちの内に今一度都清水の御僧にあひ奉らんと思ひつる
に是のみめいどのさはりと成と申をき候が扨は御そうの事成べし扨々そうも是をふびんと思
召さはなき物のためには御きやうもどくしゆしとふらひてたび給へもはやこんじやうのたいめんは思
ひきらせ給へやと心にうかまぬ涙をなかし跡かたもなきそら事を誠しやかにそ申けるせいげん思
ふまゝにたばかられ扨はさやうの御ことか申に付てはづかしけれ共一つはさんげの物語日外みそめ
申せしよりわれ爰の内にもひめ君の有かへよな/\かよひてあひみることたび/\也しにいつの比より
か何物共なくわれ一めひをとらるゝとみしよりふしきさよと思ひしか扨はむなしく也給ふがたいめんこそはか
なはずともせめてなき跡のしるし也共おかみ申さんぜひ共にそれかしをくにゝ共なひてたへと涙
をながして申けるよし長心に思ふやうきやつが國ヘ來りては今迄のちりやくも皆むた事と成
べしとむね打さはけ共せかぬ色にてしつとりと申やう仰のたん尤にては候へ共御僧の身として
よの取さたもいかゝ也其うへしせうの御ためかた/\もつてもつたいなし思ひ出させ給ふ時は御き
やうの一くはんをもとくしゆしてゑかうせさせ給はゝ是にましたるくどくはあらしいつとても國への
御こしなとは必御むやうととそ申けるせいげんとうりにつめられけにこのうへは力なし仰にしたがいとゝ
まり申さんあらなごりをしやといとまをこひ涙なからに入にけるよしなか跡をみおくりて扨々あや
うき次第かなかれしんつうの身なりせはわがけいりやくをしるへきに人間のあさましさは
おめ/\とたばかられ心の内のあさましさよ先この事思ふやうにしすましたりと悦ひいさみ』
(六ウ)

てよしながはたんばの國へぞ帰りけり扨置しきぶきやうせいげんはひめ君なく也給ふこと
きくより心みたれつゝ有にもあられずせめてはたんばの國へ尋ね行ひめ君のしるし也共おかまんと
折ふし此間ふるさとより參りたる物のふ三人候へしをよきさいわいとめしつれたひのせうそくあら
ためてたんばの國へといそかるゝ程なくたんしうに付しかばとある所にやとを取しはらくやすみや
どのあるしお近付いかにていしゆそと尋ねたきこと有此所にさいきのくんしあき高といふ
人あるかさん候かくれなきうとくの長者にて候扨其あき高のひめ君此比うせさせ給ふときく
定て其跡のしるしのつかの有べきよおしへてたべといふ有し聞ていや/\それは跡かたもなき事にて候こ
とに此比はゆゝしき人をむこに取かとくをゆづり今日は殊更吉日とてむことのもひめ君もうぢ
神へのさんけいとてさき程此所をゆゝしきていにて御とをり候と念比にかたりていしゆは内へぞ入
にけるせいげん大きにはらを立ゑ口おしやな扨はいつぞやのおとこめにたばかられしは一ちじやう也
むこといふもきやつ成へしやれかた/\我思ひしにゝせんよりもひめ君のはか所にて腹きらんと思ひ
來りてあるにあんにさういの次第也とてもしせん命をかの男と打はたさんと思ふは物のふ共承
はり仰尤も是はかんにんならぬ所也かなはぬまでもずいふんはたらき申べしはやとく/\とすゝめてし
う/\四人跡を尋ねて出にけり是は扨置みきのぜうよし長はようふのかとくをゆずりゑてよ
ろこびのためふうふもろ共うぢ神さんけいし大まくうたせはなやかにしゆゑんのきやうをそもよほし
けるあたりの山を[ママ]みわせばおりしも春なつの色をましへてさく花はことはにのへてもいわつゝし
いわての山もよそならずひめゆりさゆり世の中の月日をめくる車ゆり何なか/\の花の色
しきをり/\の心まてひとへにさけるとこなつのつゆよりあだし世にすみてけふのたのしみおもしろ』
(七オ)


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