赤木文庫 一心二かびやく道 10/21



やのめやうたへやかた/\ときやうにちやうじてあそばるゝ所へせいげんしう/\尋ね來りかの大まくをはるかにみ
てはやいかけいらんとする所を良等いらつておしとゞめあゝせかれたり/\よの物千ぎより万ぎよりかのお
とこをみさだめたらばことばをかけずと切付給へせいけん尤とまくちかく立よりはら/\とさし入
たやあそれ成男是は都清水のせいげん成が覚へたるかとてうと打をよしなかはづいて
ひんぬいてはたと打あやまたすかたさき切られにの太刀をみんとするをせいけんか物のふみき
のぜうからうどう入みたれてそたゝかいける思ひよらざることなればみきのせうが侍共あるひはう
たれてをおひ其うへよしながもせいげんか物のふにわたりあひあまたふかてをおひ給ふたゝよは/\
と也給ふか刀をつゑについて立あがりゑ扨々口をしや思ひよらさる事なれはふかくを取たる
むねんさよとさいせんかのほうしめかおほへたるかと打つくる所をしやひつはずいてたゝ一の太刀をはうつた
るとおほへたるにの太刀をうたんとする時はた/\と切付た入みたれたることなれははやぜんごも
みへず手さきにまはるやつはらを一りゃうにんも切りとめごとはとめたるか皆下人かとおぼべた
りまさしうくだんのはつめいにけさつたるにまがいなしあゝ扨むねん千ばん成仕合かなさすかの
それかし思ふかたきは打もせでかへつてふか手をあふたる事侍みやうがにつきはてたり扨も/\
口をしややれ女房はいつくに有ぞあゝ心かみだれ六かしきははあなむ三ほう/\ととうどふし
せんごふかくに也にけるかゝる所にひめ君やめのとさはかしきことはしづまるやと有し所に立よりて
あゝ是は夢かうつゝかのふ吉長どのさすがの侍が是程の御手にてかほとによはり給ふかや御
心を取なをされよのふよし長/\とこゑ/\にそよひ給ふかゝる所へせいけんあまた手をおいかけ來り
此よしをみてひめ君を取ておさへわか本望是也さいわいなからもろ共にめいとの御とも仕りたとへ』
(七ウ)

はしゆらのくけんをも御身もろ共うくべしとすでにうたんとする所をめのとたちにすかり付のふな
さけなしとよあたりに人はおはせぬかひめ君こそ只今ころさせ給ふはたすけ申さぬかやれ
人はなきかとよばはれば此聲にやきか付けんたおれふしたるよしなかかうべをきつと上てみ
れはせいげん也うたんと思ふ心にてよはりふしたるまくらもかろくずんと立せいげんが首ちうにう
ちおとし扨々うれしや思ふかたきはうつたるぞやとかうしやうにの給ヘ共又よろ/\とたをれけるひめ
君めのと立よりあゝおくれたる御心やにくしと思ふせいけんは打給ふ是程うれしきことあらんやのふ日
比とはちがいたるそやよし長どの心をはきと持給ヘとかい/\しくも力を付手を取こしをかゝへつゝし
ゆく所に帰りし有さま誠に定めぬ世の中やと皆かんせぬものこそなかりけれ
第三
ひめ君めのともろ共によしながの御供ししゆく所へ帰らせ給ひけりされ共よしながあまたのふかてを
おい給ヘは御めもくらみたへ入様におほゆれ共我と心を取なをしそれ人間の命は定めなき物也
我むなしく成ならば又いかならん人をもむかへさいきの家をつかせ給ヘ殊に御みはたゝならぬ身とう
け給はるさあらば其子をもりそだて一つはそれがしがかたみとおほし召よきにもりそたて給はゝ
草のかけにても思ひのこす事候はずと心をしつめて申さるゝひめ君聞召なさけなの仰かな御
身におくれみつから又よの人にまみゆべきや思ひもよらす□□心を取なをし今一とへいゆならせ
給ヘやと涙と共にの給ヘは御そは近き人/\もつれて涙はせきあへす所にいづく共なくきやくそう
一人ていしやうに來つてよしなかにつげていわくなんぢたうぢやうのなんをうけきずをかふむる然るゆ
へにへいゆの手だてをおしゆる也是よりつの國ありま山のをくにしよびやうをじするをんたうありさる』
(八オ)


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