赤木文庫 一心二かびやく道 13/21



にむかつて扨其方は願主にあかをのぞむと聞みづからゆやの願主ぞかしあかをかいて參らせんそれ/\と
の給ヘは病人承はり是はおそれおゝく候へ共御ぜんごんの爲なれは御ゆるし候へとやかてうしろをさしむく
る姫君いぶせき心もなく望のまゝにかきすまし扨いたむ所はなきか病人承はり扨々有がたふ
候もはや望もなしと一れい申ていたりけり扨こそまつ代まて有まゆの山のゆなと申て女のはから
いつとむる事此時よりのためし也其時ひめ君仰けるは必々いつかたにてもたんばの國さくらひめにあかを
かいてゑたりなどゝかまへて人にさたをいたすべからず病人畏り何しにさたをいたすべき又それかし
も其方へ申度事の候薬師如來のせなかをかきしなとゝかまへてさたをしたまふなといふか
と思ヘは其まゝるりくはう如來とあらはれしうんにのつて立給ふひめ君大きにおとろき扨々
是はいか成事やらんかゝるきどくをおかむことよとはつろていきうし給ひくぎやうらいはいしたりけり
如來くもの上よりことばをかはし我なんぢが心を引みんためあさましきすかたにへんしてなんぢにまみへ
つるに誠のぜんこん今こそしられて有ぞとよ去ながら汝かつみばくたい也其ゆへはいかんといふにかのき
よ水の法師なんぢがおつとにころされ六道りんゑひまもなく終には又ちくせう道にをちてくを
うくるは我あくこうよりなす所とはいひながら此つみ汝にむくひて三づだこくせんことを我いやしくもふ
びんと思ひ念比につげしらするぞと是をわすれずはやく此代をいとひ仏くわぼだいをもとめなばもろ/\
のつみとがはさうろのことくきへうせ仏のゑにちの光りを請終にはぶつくわに至るへし此ことうたがふこと
かれ我此山のやくし如來是まであらはれ來ぞとこんじきのひかりをはなつてこくうにあがらせ給ひ
けりひめ君夢共わきまへずかの御跡をふしおかみかんるいきもにめいしける扨も/\かゝるきどくをまのあ
[ママ]へにをがみつゝ今かのおしヘをうけながら其心のなからんは只木ちくにおとるべし是よりすぐにいつかたへも立こへすみ』
(十ウ)

の衣に身をやつしほだいの道をもとめんと思ひきれ共去なからふるさとの父母又はつまの吉長になこりをしさ
はかぎりなしされ共かゝる大しを思ひ立みのうきよのなごりにかゝはるべきかと思ひ定めてそれよりも文こ
ま/\とかゝれたり其ぶんにみづからふしぎに仏のつけをうけ此世をいとはん心ざし露をこたらしなこりの心
をふりすてかく罷出さふらふ只御なこり申てもあまり有ふるき哥にも▲出ていなは心かろしと
いひやせんよの有さまを人のしらねはと申つたへしことのはみづからがみのうへ也をや子は一せのちきりな
れはいく程もそひ參らせずふかうと思召さるべし此代のふかうは後の代のかう/\共也參らせん是は
父母の御かたへと涙なからかきとゝめ扨又つまのよし長へはふうふは二世の契りといへば此世のゑんこ
そうすく共來世は必一つはちすのうてなに至りながくみゝへ參らせんふることのはにいそけとよ涙を
文にまきにまきこめて其まゝをくるすみのひぬまにとよみしも思ひしられたり是はみきのせう殿へ
とかきとゞめ我か文ながら打詠只さめ/\とぞなげかるゝいや/\ちこくうつり人にみゝへられては
あしかりなんと心つよくも思ひ切たけとひとしきくろかみを情なくも切すて二通の文にまきそへて
一ま所にすて置泪と共にしのび出よはにまきれて出給ふは哀成ける次第也すてに其よ
もあけければよし長一ま所に立出爰をみれはくろかみに文をそへて有はつと思ひひらいて
是をみるよりも大きにおとろきと方にくれておはしますいや/\是は其まゝは置がたし殊にかれはく
わいたいの身也それかしほつ付申さんと下人のおのこ近付汝はたんばに帰り父母にしらせ奉れそれ
かしは跡をおひ尋ねに出候と念比に申べしと取物も取あへず跡をしたいて三重いでにけり是は扨置
あらいたはしやひめ君は有しをしへにまかせつゝ是より都にのぼり行いか成人をもしと頼み仏の道
に入らばやと思ふ心をたよりにてよいにまきれて出給ふ比しも今は春さめのかさの一ゑを頼みにて』
(十一オ)


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