赤木文庫 一心二かびやく道 14/21
そこ共しらぬ山道をたとり/\とたとり行心の内こそあはれなれ今行道はよをこめてあまくもふかくかさ
なりてくらきよりくらき道にぞ入にけりはるかにてらせ山のはの月とふることのはを思ひ出つく/\是を
あんずるに此代のまよひのつみとかにて上ふしながくあくしゆにおもむくをくらき道とはよまれたりそれ
[ママ]お仏の力にてすくひとらせ給ふをは月によそへてことはりしは我かみにしられつゝたのもしや今立出る
有ま山いなのさゝ原風ふけはいでそよ人にあらね共我をしたいて來るやと心ぼそさはかぎ
りなしやう/\行はあたら川けにやよの人のたま/\此しやうに生れ出又いつのよをまつのとのあけぬく
れぬといたづらにむなしくならんはたれも皆あたら川とは思はずやはや山のはもあけほのゝのかねつく
/\と詠れは北にあたりてみへたる山これこそふる里たんばの國さそな父母をもみづからが身のうへ
を爰にもしろし召れしと思ヘは泪はとゝまらず爰はいづくぞうつるせの川をはやく打渡りげになに
しあふよの中うつるならひさま/\にこぞはことしに立うつり人の心の花の色風ふきあへずうつるらん
是ぞつゞみがたき近き山しさきつゞく花のはやしを其まゝに有明さくら是や此空にしられん雪
の色猶しろたヘにさく花のひとへに月のことし是有明桜と名付たりされは花一時人一さかりと
聞時はけふをもしらずあすか川ふちはせと成よの中をいつ迄頼みはつべきや我は只一筋にあ
た成此よをいとひつゝ佛の道にと心さしかゝるうき世をふりすてゝ我がくろかみをきりべの里あ
すの命はしらね共けふは池田のしゆく近きおくり 川にもはやく付給ふ川に望てみ給ふにふりつゝ
くなが雨に水かさまさり渡るべきやうあらされは跡よりをつても來らんととび立斗に思へ共其かい
更にあらされは泪にくれておはします有かたや薬師如來五しきのくもに打のりみかげをあらはし
ことばを懸いかにひめ我がおしへつることばのすへたかへぬ心しんひやう也汝か大くはん成就させみだとうたい』
(十一ウ)
の仏となしまつせの衆生をすくふへしわが願力をあらはし其川やす/\と渡してゑさせんと御ことばの下からくもの内より一
筋のはしつらなりて是/\渡れとの給ふ聲有かたかりける三重したい也姫君夢ともわきまへず如來のおし
へにまかせおもはずはしを打渡るを物によく/\たとふればもろこしけんさうくわうていのせういうせんにつれられ
てくもの懸はし打渡りけつきうてんに入給ひしも是にはいかてまさるべき跡ふりかへりみ給へは渡りし道ははや
たへてこくうにたつかことく也姫君あやうく思召仏の力といひなから偏に夢のごとく也其時仏の給はくこれ
はよの中のあやうき事をしらすやたま/\にんがいにしやうをうけ仏の道に入すして只一念のあやまりにて
みらいやう/\か其間あくしゆにだしてくをうくるはあやうきことにあらすや此さかいをさとりゑはむじやう
だうを成就せんかまへておそるゝ事なかれ必うたかふべからすと念比にの給へは姫君有かたく又もやもくせんに
來迎被成只今の御教かんたんきもにめいし泪にむせばせ給ひけり其時仏あふ有難し/\心安渡るへきぞとこくうにあ
からせ給ひける姫君夢共わきまへすあら有かたやとふしおがむに本より足にふみとむる物なければ次第に下
にさかりあやうくみへし所に折ふし川風さつとふき持たるかさばつとひろかり風にしなへて上りゆくはかのほうわう
のはをのしてこくうむへんにとひ行も是にはいかてまさるべきひらり/\とひらめきて程なくむかふのきし
に付給ふみ仏の御ちかいとはいひながらためしすくなき有様やと皆かんせぬものこそなかりけれ
第四
ひめ君はいそかせ給へは程もなくけふの日もはやくれはの宮に付給ふいたはしや姫君くわいたいの御身をう
ちはすれ佛のつげの有かたさに只一筋に思召れしがあたる月の事なれは俄にさんの心ちにて御あしもたゝ
ざれは此御宮のひさしの下にやすらいしはらく心をえらすべし殊に此御かみはくれはの宮あやはの宮と申て
其かみわうじん天王のきようにもろこしごぐんよりあきつしまに渡り給ひぢよこうのながきいとなみをひろめ給ひし』
(十二オ)
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