赤木文庫 一心二かびやく道 15/21
御かみにて女人の御身也みづからかみの上をも哀みと思召すべけれはさいわい也とやかてはいてんにさしかゝりふかくきせ
いを懸給ひ其夜はそこにぞやとらられけるされば神のちかひにやさんの心もしづまりてしはしまとろみ給ひしはふし
き也ける次第也是は扨置みきのせうよし長はとも人あまたにてつまの行へを尋んと跡をしたふて出給ふいつくへ
か行つらん是よりは道すぢおほし物のふ共をさしわけんと先ふる里たんばぢ扨又西ははりまかいどう扨かいへんにつゝ
く道あまかさきをさしこへなにはの都天王寺かなたを尋ぬへしとそれ/\につかはし扨其身は物のふ一人めしつれ是
より東池田をへて都のかたを尋へしと池田のかたへと心さし足にまかせていそがるゝされ共爰かしことめをとめ心をくば
り給ふにはや寺々のしよやのかねも聞へてくらさはくらし道みへすいかに汝きくかとよもはややはんに及べり爰を
みれば何とはしらず宮立有こよひは此うしろだうにやどりて少しまとろみよをこめて立出ん下人承はり此き
尤にて候姫君此道を行給はゝ明日昼より内にはをつ付給ふへし御たのもしう思召せとたがいに心をなくさみて其よ
はそこにぞやとられけるかみならぬ身のあさましさは一まをへだて姫君やとらせ給ふをしろし召れぬはいたはしかり
ける次第也すでに其よもごかうに及ふ折ふしかなたこなたのからす共ねくらをはなれ聲/\に宮立近くなき
さはぐ吉長ふつとめをさましいかに汝はやあかつきにも成らん村からすなき渡るいざ打立ん尤とて其所を立
出都の方へといそかるゝ猶村からすなきさはげはよし長御らんし扨々心にかゝる事こそあれそもからすといふ鳥はじん
せきまれ成野山か扨はかゝる宮なとにはもりのこかくれしげけれはそこにやどりて聲するはいつくも同しこと
ながら今此からすはけしからずなきさはくはいかさまそれがしか身の上をしらする事かおほつかなしとの給へは下人
承て仰はさにて候へ共さすが我君はつね/\の心ざし物にまよはぬ御人成がか程まではましまさしかね/\君の
御はなしにからすの吉れい承るはし/\覚へて候むかしもろこししくわうていゑんたん太子を取こにし召こめおかせ給
ひし時ゑんたんなげきてしくはうていにこきやうへかへしてたび給へ尤母にたいめんとけたきと此事をわひての給ふ時し』
(十二ウ)
くはうていの給はく汝を國へかへさんはからすのかしら白くならん其時にゆるしてかへしゑさすへきとあざわらつての給ふ時にゑんたん
是をかなしみ天にむかつてきせい有におやかう/\の心さしを天もなふじゆやまし/\けんからすのかしら白く成りんげん
あせのことく力及ずしくわうていゑんさんをさしゆるしこきやうへかへし給ふとかやかゝるめてたき吉れい有心にかけ
させ給ふましといさめ奉ればよしなかげに誠しられたり是ぞおふこにをしへられあさせを渡るとは
今此事をや申らんとしう/\二人打つれ其まゝそこを立出しはほいなかりける次第也扨其後に姫君はすで
に其夜も明けければ御めをさまし是よりいつかたへ迄行べきか若さんの心ち有べきかとあんしわつらひ給ひけり
所にいつく共なく八しゅんにたけ給ひぬ老僧かうぞめのけさをかけすいしやうのじゆすをつまくりはとのつえ
にすかり姫君のあたりへ立よりいかにそれ成女性やさしくも仏のをしへをしんしほたいの道にをもむくことさせんの
くとくしゆ行のこうもつもらね共一心誠有ゆへにすみやかにりんゑをはなれみたとうかくのぼさつと成あま
ねくしゆしやうをすくふべき其しるしけんぜんたり然共今其所はわくはうすいしやくの道をしめす所なれ
はけがれをいむことを方便を以て立られたり然は汝其所にてさんの道をとけんこと神社のけがれをそれあり
いそきそこを立出て是より五町斗あなたに少里有べしそれへ行て宿を取そこにてさんをいたすべし是をしら
せん其ためにらくやうひかし山清水あたりより汝が爲に來れるぞとけすがことくにうせ給ふ姫君夢共わき
まへすあゝ有がたの御事やまさしく清水のくはんぜをんかりにあらはれつけしらせ給ふか有かたや是に付ても猶々
行衛たのもしやさあらはをしヘにまかせ參らんと御跡をふしおがみくれはの宮を立出あしにまかせていそかるゝ又もやさん
の心ちつき少し心を取なをし老僧のをしヘを給ひし一つやにさしより此やの内のあるしへ申度事の候是は近きあたり
の者成がかゝるしさいの候ひてあるしをみこめ是迄參り候ていのはしに置給ひさんたいらかに仕らは此をんしやうは
ほうずべしと打しほれてぞ申さるゝあるしふうふ此よし承りよし誰にても候へかし只今さんにのぞませ給ふとあれはのふこな』
(十三オ)
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