赤木文庫 一心二かびやく道 17/21
たへ入らせ給へとておふぢもうばも御手を取ていへいたき上げ申よきにいたはり奉れは其まゝけしきもしきりつゝ
やかておくり御さんと聞へけり去程におふぢうばかい/\しくも御子取あげ見奉れは玉のやう成なんし也いづくのたれとは
しらね共國本にて御さんあらは何も悦ひ給はん物を去なから御心やすかれと色/\なぐさめ申けりいたはしや姫
君此比のうき思ひあゆみもならはぬかちゞのたびかれ是御身もつかれつゝ何やらん心もおち入御めも
くらむ斗也かすか成御聲にて仏のみなをとなへ給ヘはあるしふうふはおとろきのふ/\たびの上らう御めをひらき
心をつよく持給へと聲を上よびいかせは姫君やう/\御めをひらき扨々ふうふの人々かゝる者にやとをめされ
かゝらぬうきめをみ給ふことよとかくみづからは此ていにてさふらはゝたすかりがたく覚へたりむなしく成し其
跡にていづくのたれ共しろし召れす候はゝおぼつかなくおぼすらんそもみづからは是よりたんばの國さいきの
ぐんあき高がひとり娘也つれあいのをつとはみきのせう吉長と申人也みづからむなしく也若其方より尋
來らす候はゝ御情にたよりをしらせてたべあるしふうふのをんしやうは送かへし申さるへし一しゆ一がのなかれも
たしやうのゑんと聞時はましてみづからあるしふうふの情にて心やすくかくりんしうに及ぶこと身にこそしら
ね過去のゑんと存れはあら名残をしのふうふやとたからかに念仏してねむるがことく終にむなしく也給ふ
ふうふおどろき御しがいに取付よへとさけべとかいぞなしあらいたはしの次第やとなくより外のことそなし扨も/\
只かりそめに御やど申思はぬなげきをする事よ扨御ゆいこんに國本へしらせよとの給ひしはいよ/\しらせ奉
らんとおくりやがてやういをしたりけり去程によし長都のかたへと心さし行共/\尋ねゑず女の足にいか程か行べ
き扨は此道へは來らぬと覚へたり是より立帰りいつかたへも尋ねゆかんと道より取てかへし有し所に付給ふ殊
外つかれに望むいまた日も高し二三里は行べきが先此所にとまりつかれをはらしとをるへしこれは爰
に一つや有かしこに立より宿からんとしう/\二人いほりちかく立よりいかに此やのあるし是はたひの物成かつかれに及び』
(十四ウ)
て候一やの宿をかしてたべあるし聞てやすき事にて候へ共叶ひかたきことの候今もたび人に御やど申思はぬうき
めを見奉る此やには叶ふましいまだ日高く候へばいつかたへもとをり給へたびの殿とぞ申けるよし長聞て扨
其たび人に宿をかしうきめをみ給ふとはそれは男か女かきかまほしやと申さるあるし聞てさん候くわいた
いの上良に御宿を申てさんはたいらかに召れつるか俄に取つめむなしくならせ給ふ其御名をは父はたんば
のさいきのくんし上良の御ていしゆはみきのぜう吉長といひもはてぬにそれは誠か中々やそれこそ尋る我かつ
まよといほりの内に懸入むなしきしがいにいだき付是は/\と斗にてしはしきへ入給ひける御泪の隙よりも
扨も/\か程思ひ切ならば何とてとゝめ申べきそれがし共によをいとひもろ共に付そひなは今のうきめはよも
あらしと恨みかこち聲をあげやれ今一とよし長かとことばをかわし給へやとをしうごかしよべとさけべとかいそなし
たをれふしてぞなげかるゝやう/\泪の隙よりも扨うみおとしし子を取あげひざの上にかきのせ扨々くはほうなの
みとり子や國本にて生れなばあまたの物にかしつかれてうあひかぎり有べきか殊にちぶさの母にはすて
られ思ヘは/\ふひんやといとゞ泪はせきあへずよし長泪の隙よりもなふあるし扨此者はゆふへ爰ヘは參りたるかやどはい
つ比かし給ふあるし承り御宿を參らせしはけさたつの一天に是へ御入被成候其時尋ね候へはゆふへは是より五町
斗あなたのくれはの宮に御とまり候と語らせ給ふよし長いよ/\あこかれゑゝそれかしもあのうしろどうにとまりつ
るが一つ所に有ながら神ならぬ身のあさましきは爰にもしらさりけるか又立出るあかつきにからすのしきり
になきさはきしは一つに有しをしらせか又は今のわかれをしらせんためか〔ママ〕はれに付是に付なごりをしさはか
ぎりなし又きへ/\とぞ也給ふあゝしよせんそれがしもかゝるうきめをみんよりも同し道にと思ひ切すでにじがいと
みへしがあゝまてしはし只今爰にてしかいせは妻のじがい又はみとり子それがしを人のくろうと成ぬへき先
此所を取したゝめみとり子をもつれ帰りあき高へ渡し其後いかにも成べきと思ひさだめいかにあるしふ』
(十五オ)
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