赤木文庫 一心二かびやく道 18/21
うふ先此度は國に帰り重て立こへ今此をんをほうずべしいとま申てさらばとて姫がしがいを取持せ其身は
若をいだきつゝおもてをさして出給ふあるしふうふも立出はるかにみをくり奉り泪と共にいほりの内へ入にけり
吉長若をいだきながらひとり事にかへす/\もくはほうつたなきみどり子かな我もいく程そふべきか汝にそふ
も此道斗の間也せいじんの其後父母よといふならはか程かなしかるべき思ヘは/\うらめしやと泪ながらにかきく
とき國本さしてぞ帰りけるとにもかかくにもかのよしながのありさましゝたるつまのわかれといひいきたる子共のう
きめといひひとかたならぬ思ひやと皆かんせぬものこそなかりけれ
第五
みきのぜうよし長は妻のしかいを取持せ并にみどり子をいたきつゝたんばの國に立帰り下人を近付汝は大か
た殿に參り此よしを申上よ畏て御まヘを罷立大かた殿へぞ參りける其跡にてよし長みとり子を母の
しかいのそばに置扨も/\くわほうつたなきみとり子やいく程そはぬ物ゆへにおやと也子と生れかゝるうきめを
みるやらん生れおちたる其時に水のあは共成ならば今の思ひは有ましきに只先のよのむくひの程思ひやられ
てかなしやと泪にむせはせ給ひける出つる泪の隙よりもいや/\只今もやあき高ふうふの來り給はゝかくこの道もと
ぐべからすとても帰らぬ事なれはとくさいごをいそぐべしとすゝりりやうしを取出しじせいのじゆをぞかいたりける
其ことばにいはく廿五年てつせきしん一じにしやうさんすつゆ又かけをくに一しゆのやはらけ有▲はかなしやあだし
桜の花に置つゆもろ共にきへてゆくみは年がう月日さいきよし長とあざやかにかきとゝめこしの刀をひんぬい
てすでにじがいとみへし所へあき高ふうふか懸來てゆんでめてに取付こはそもいか成事やらんしはらく/\かなしさ
のあまり尤なれ共去ながら思ひは何も同し事され共かなはぬよの中のらうせうふせうのならひなれは
力及ぬ次第也此ことはりを聞入す御身じかいとげ給はゝ我/\かみの上ひとりならす二人迄さかりの物をさき』
(十五ウ)
立おいの松のつれなくも残りてかいの有へきか所せんじがいをとゝまりわすれかたみのみとり子を取そたてなき跡
をもとふらいなばさいごの共にはまさるへしとさま/\いさめ給ひけりよし長承はつてけに/\仰しこくせりいか程のこ
と也共思ひかへしと存れ共仰をそむくはふかうの至りと存れは力及ず仰にまかせみとり子をそたて又は
なき跡をもとむらいて參らせんと泪と共に申けり秋高ふうふ誠に思ひとゝまり給ふことなげきの中の悦
ひやと泪なからかきくとき扨父母姫がしがいに取付扨も/\よの中のさだめなきとはいひながら我/\を跡に
置何とかなれと思ひいづくへとてか行ぬらんとむなしきしがいをおしうごかしなくより外の事ぞなしされ共かなは
ぬ事なれはのへに送らせさま/\の御とむらい誠にせんこんはかきりなし殊にさんの道にてむなしく也しとむらいにはなが
れくはんしやうにしくはなしと此させんを取おこなひ四十九人の僧をせうしさま/\仏事のていげに有かたくぞみへ
にける去程に此なかれくはんしやうの次第と一つは四十九本のそとばをたて水のなかれにしたかいて所/\に
たんをかさりぐもつをそなへ十かいゑしやうもまのまへにあらわるゝよとおびたゝしくかのぢごくのかう火も八くどく
ちの水にしめされならくむげのみやうふうも九品三せうのすゝしきたよりと也けるかとけにたのもしくぞみヘにける誠
にぢごくとをからずかんぜんのきやうかいあつき外になし一心のきやうかい也此願しやうのくどくにこたへめいどの
せんあくまのまへにうかふ斗にみヘにけりあらいたはしや姫君は中うのたびにおもむきいつくをそこ共しらくものこか
れてまよひ給ひけり誠にめいとの有さまとうくはつしゆこうあひぢごくけんじゆぢごくと申は手につるき
のきをよつれははくせつたん/\と也とかや扨こそつるぎの山とは申とかや有時はせうねつ大せうねつのほの
ほにむせび又はくれん大くれんのこほりにとちられてつぢやうかうへをくたきくはさうあなうらをやくとかやう
へてはてつくはんをしよくしかつしてはとうしうをのむといふかきのくるしひまのまへにけにあさましき有様也又かたはら
には是ぞしやはにて聞及しちくしやうたうととおほしくてかたちはいるいのけだ物にてあるひはおもて又は手』
(十六オ)
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