赤木文庫 一心二かびやく道 20/21



足其さま人のことく成が数かぎりなき其中に五たいは四そくのけだ物にそかしらはわかきほうし成かしやくを
うくる隙とみへてもくねんとしていたりしが姫君をみるよりもたちまちいかれるめんしよくにて高しやう成こはねを
出扨々それ成はしやばにてみゝへしたんばの國の姫ならずや御身ゆへにそれがしがかくあさましきちくしやうだうにたごくし
てちうやのくるしひ隙もなし此をんねんをいつかははらさんと思ひしにたちまちむくい來つて御身もはやかゝる所
に來る事我がいきとをり爰に有思ひしらせ申さんといふよりはやくじやしんと也ひたいにいかれるつのをし
やうしくはゑんにひとしきしたを出し兩かんひかりはや姫君にとんでかゝる其いきをひおそろしかりける次第也姫君
夢共わきまへずぢこくのかしやくのくるしみとは今此事をやいふべきかなはぬ迄も此なんをのかれんと思召足に
まかせてにげ給ふがすゝんでさきをみ渡せはすい火二がのびやくだうまのまへにあらはれたりゆんでをみれは水
のかわはくらういさごをかきあげたりめてをみれば火の川にてめうくはさかんにもへあがるゆんでめての川の間にほ
そき道すぢ一つ有是を渡りてむかいのきしへと心さしのぞんてみれはゆんでめてのすいくはの川よりあらゆるあ
くぎよどくしやひりやうせうじやかうべをならべて我くらはんとあらそひたりいたはしや姫君渡らんとするに
たよりなく立帰らんとすれば跡にはほうしが一年のしやしんのなんぜんごしんたいきはまりせんかたなくこそみへにけれ
かゝる所にむかいをみれは大じ大ひのくわんぜをんしうんにのつてあらはれ出かうしやうにいはくいかに姫只一心にみたの名
号をとなへて其ほそ道を渡るへしそれ水火二がの百たうは一心のまよいにて水共火共みゆるぞ悪ごうほんなうふか
きゆへ悪ぎよどくじやもめにみゆるぞそれをおそれいとふべからず西方ごくらくせかい十万をくとの遠き道
もこしふほんの所にて水火の悪たうたちまちにこんるりへいさの道と也爰をさること遠からぬぞはやとくみ
やう号をとなへよと様々をしへ給ひけり姫君聞もあへす有難やとがつしやうしなむ西方のあるしみづからしやば
[に□て]□なせるさせんはうすく共此一念のくどくにて極楽世界へむかへとらせ給へなむあみた仏ととなへ給へはふしきや』
(十七ウ)

姫君のとなふる名号の其いきれん/\とつゝきたるけしきかくれなく只白うんのことくにてたちまち六しの名号とあら
はれ有難かりける次第也扨ほうしか一念のしやしんいよ/\いかれる色をあらはししやはのむくひをしらせんとしんいのつ
のをふり立あゆみよる其いきをいかのあしゆらせつかけんそくにりうきんなら王が八くとくちの水をほさんとせつな
にかけつて來りしも是にはいかでまさるべきすでに姫君にとんでかゝらんとする所に忝も名号の其□今にはしめぬ
御事にてみたのりけんとあらはれこくうむけにぬけ出かのじやしんがそは近くひらめきよるとみへしかたちま
ち首をはねをとせばからだは其まゝもとのぢごくにおち入しんゐの火ゑんとへんしみらいやう/\くをうくるは
ことはりとぞ聞へける扨姫君御めをひらきみ給へは今迄みへし二が白たうたちまちへんしてこんるりのいさごの道
と也にけりあら有難の御事かないよ/\極楽へむかへとらせ給ふへしなむあみた仏との給へはふしぎやこくうに花
〔ふり〕□□しうんたな引姫君をすくひ取こくうにあがるとみへしが程なくまの前に極楽せかいのていさうのあらはれ
けるこそ有難けれ扨姫君しうんにぜうし其内より我其かみさんの道にて身をうしなふ末代の女人も此道
にてあやまちあらんふびんさにこのせい願をおこして平さんの道をまもるべし必此後しやばにかたちをけんしてこ
やすのぢざうとあらはるべし是といふも其本はみだ名号のくどくゆへかゝる所也かまへてうたがふへからすとの給
ふことばの下よりもたちまち大びやくれんげとへんして程なくれんげすほみけり[さ]□ればしやくにもしかい一人念仏めう
こんしさい方一れんぜうとは今此ことをや申べき程なくれんげひらくれは其中には七ほうしやうごんのくうでんの
内にてちざうぼさつとあらはれみめうほつしんの御かたちまのまへにみへ給ふは有難かりける次第也其外ぼさつひか
りをはなつて立給ふ扨こそ此御かたちをうつしてたんばの國をいの坂のこやすちざうとあかめて今の代まて
も傳はりれいげんしゆせうのほさつ也せうこも今も末代もためしすくなき次第やとみなかんせぬものこそなかり
けれ
寛文十三葵丑三月下旬
山本九兵衛板』
(十八オ)


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