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とうだいき

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とうだいき
一たんめ
さてもそのゝちむかしてんちくのかたはらにさいじや
うこくといふくにあり此みかとの御なをはさいしやうわ
うとそ申けるならひのくになんかいこくとてありけるか
此くにをとらんとてさいじやうこくのみかとよりたひ/\
をしよせたまへともされとも又なんかいこくのつわもの
こわくしてさいしやうこくのくんびやうともおほくほ
ろひ申けるみかとむねんにおほしめしれんしといへるつわ
ものを御まへにめされつゝれんしちよくちやううけたまは
り御まへにそまいりけるみかとゑいらんまし/\ていかにれ
んしなんちは此たひ四千万きの大しやうにて又なんかいこ
くへむかふへしれんしいかにとありけれはれんしちよ
(上一オ)
くちやうかしこまつて申あくるこはかたしけなきせんしかな
つわものおほきそのなかにそれかし大しやうたまはるこそ一つに
いゑのめんほくなりなにさまてきわうのくひとつてほこのさき
にさしあけてやかてきらくを申へしわかきみさまとそ申ける
みかとゑいらんなのめならすれんし御まへをまかりたちい
そきしゆくしよにたちかへつてつまのにうはうちかつけて
いかに申さんきゝたまへみかとよりのせんしにて四千万き
の大しやうにてなんかいこくへくたされける@つせんのならひなれ
はかへるへき事さためなしたちなはとくこそかへりつゝ御め
にかゝり申へきとけにうれしけにのたまへはみたひきゝもあ
へたまはすつく/\ときこしめし此ほとはつわものゝそのか
すをもよをし給ふときゝつれと人のうへそとおもひしに
いま又わか身にきたるかなちかきみちにてあらんこそたま
(上一ウ)
挿絵(上二オ)
つさのかすをもつけなくさむ事もあるへきにこゝろくるし
き身となりてこゝの月とおほゆるなりいま一月の事なれはと
かくなりゆくすかたをも御らんせかしとのたまひてまつさめ/\
となき給ふれんし此よしうちきひてよにもうれしき御こ
とかな三千にあまるまてこといふものゝなりしにわすれかた
みとのたまふはたのもしく候なり見ましき事こそくるしけれとも
四千万きの大しやうたる身かわたくしをかへりみてとゝまる事
のあるへきかもしも御さんあるへきよしかせのたよりにきく
ならはこゝろやすくもうちしにしわすれかたみのいてきなは
これをかた見にとらせよとむりやうのあみたほとけ御たけは三寸
のこかねほそんのたふさのなかにこめ申はなさすもたせたま
ひしをもきたのかたにたてまつていかに申さんきゝたまへ此@
ほとけと申せしは二せのくはんをはします御たけは六千万を@
 (上二ウ)
なゆたかうかしやなれはしゆしやうのきこんにしたかひて十六の@
かたちけしのなかにもこもり給ふかかのによらいは九ほんかうのほ
とけにてしゆしやうにたちよりしやはにけんしふんふ@ちかつか
すそのためにほうさうひくにけんしては六じのみやうかうを
ごかうのあひたしゆし給ふことにわうらいしやはにしてはかの
しやくそんとあらはれ八まん四せんのきやうせついまはたゝあみ
たふつの三そんをとかんためなりこのみやうかうをとなふれ
はしやくそんはおくりまし/\あみたはうけとりたまふへし三
せのしよふつみたてふつのふつしんなりやくしはあくほさついん
とうましますふけんはちうしゆとしてしやはせかひ千里のは
しちやう/\にみたをいたゝき給ふなりせいしはねんふつのそ
の人をとりわけまちやうしたまひつゝみやうかうすゝめた
まふなりもんしゆは三せのしよふつのもろ/\のほさつかくもんの
(上三オ)
てんにんほさつしやうとに九十六人はなをむすひてんにのほ@
こくうさうにけんしてはそらよりしよほうをふらせつゝちに
くたつてはちさうほさつとけんしたまひちよりたからをあ
かしては一しゆのくわんをたて給ふなかにもによ人はちさうをし
んし給ふなりたゝならぬによにんをはとりわけかなしみ給ふ
なりやかてほとなくかへるへきとはいひなからもしもいくさのな
らひにてむなしうなるときこしめさはこせをはたのみ
たてまつるかへす/\もなこりをしく候なり此たひあまた
たちいつるかいつれもなこりはをしくともわれほとくるしきこ
とあらしとさしもにかうなる人なれともしはしなみたはせ
きあへすをつるなみたのひまよりもやかてかなはぬみちそ
とてなこりのこゝろをたけくすてをもてをさしていてた
まふいたはしやなきたのかたちからおよはせたまはすしなく@@
 (上三ウ)
挿絵(上四オ)
うちにいり給ふこゝろのうちこそあはれなりさてもなんかいこく
へくたるみちなんしよあまたおほかりきこまのむちをはやめ
てゆくみち廿日あまりとをほへしいくさいさこなかれてそ
うれいはかゝたりこまにはなれて七日ゆきふねにのりつなひ
きのほりゆきみれはへい/\としてちんせきたり四ほう
にきりふりじやうやのやみにことならすたま/\事とふ物
とてたにのふくろみねのさるこらうやかんのこゑはかり月か
さなりてゆくほとにこゝの月と申にはなんかいこくにそつかれ
たりくにのさかひにのそめはにわかにかせふきそうかいみな
きりをちかんせきをうちくたきてんねんみすさかまき
きのはもしつむはかりなり四千万きのせいともはこまを一しよに
たてならへいかにとしてか此かわをわたるへきとてせんきする
13そのなかにもれんしは大しやうなれは此よしをきくよりも(上四ウ)
あらこと/\しのつわものやそれかしに御まかせ候へとそうひ
やうともを山にいれ大ほくをきりよせていかたを大きにくま
せつゝ四千万きのせいともはゆへなくむかひのきしにそあかり
けるすてにそのひもくれけれはまつこんやはこのやまに
御ちんをとれとありけれはうけたまはると申て四千万きのせいと
もはしはらくいきをそつき給ふとにもかくにもかのれんしの
はかり事のゆゝしき申はかりはなかりけり
とうだいき
二たんめ
さてもそのゝちすてにそのよもほの/\とあけぬれは
四千万きのせいともを一めんにたてならへれんしかそのひの
しやうそくははなやかにこそ見へにけれまつはたにはからあや
ひつちかへきるまゝにひをとしのよろひをきをなしけの五
まいかふとにくわかたうつていくひにき大とうれんのつる
(上五オ)
きをさしあしけのこまにうちのり四千万きをひきくして
いそくにほとなくつきしかはなんかいこくのみかとのおふての
もんにをしよせときをとつとそあけにけるらいてんより
もおひたゝしてんちもひゝくはかりなりなんかいこくのくん
ひやうともときのこゑにをとろきてうへをしたへとかへしける
されとも又みかとかりれい大しやうをそろへつゝ百万きのつ
わものはおふてのもんにきつていて大てんあけて申やうたゝ
いまこゝもとへすゝみいてたるつわものをいかなるものとかお
もふらんなんかいこくにそのなをゑしそゆうくわんにんとはわ
か事なりかけよてなみをみせんとて大をんしやうにて申
けるよせてのつわものこれをきゝ一めんにてかゝりけるそのな
かにもれんしは大しやうなれははなやかなるよろひをき
あしけのこまにうちのつてあふみふんはりくらかさに@
(上五ウ)
挿絵(上六オ)
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りかけよてなみをみせんとて大せいにわつていりこゝをさ
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やうこくのつわものともみなこと/\くうたれけりれんし
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にたかてこてのなわをかけきみのをまへにめしいたすむねん
たくひはなかりけりみかとゑいらんまし/\てれんしとい@は
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こゝろにかゝる事とてはわかくにをいてしときなにさまきみの
くひとつてほこののさきにさしあけてまいらんと申たるそのほん
いをはとけすしたかやうになるこそくちをしけれたましゐは
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く一とうにあらをそろしやとしたをまきめを見あはせて
(上七オ)
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なゆみやとる身はたれもかくこそあるへけれなんちかうさん申へし
さいしやうこくの御をんよりちやうくわまし/\めしつかはんとそお
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そくきになせとありけれはうけたまはるとてやかてかくこそをこ@
(上七ウ)
挿絵(上八オ)
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物いはぬくすりをくちにふくめは物いふ事もあらはこそうきも
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とうたいき
三たんめ
さてもそのゝちこれはさてをきさいしやうこくにをはします
きたの御かた此事ゆめにもしろしめされすあけぬくれぬとす
き給ふか月日にせきもりすへされは十月はんと申には御さんの
(上八ウ)
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くれまたせたまへともまつにかひこそなかりけり見るたひ事に
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ろこをおもふならいはいつれにかきりはあらねともいま一しほのなみ
たなりつなかぬ月日かさなりてわかきみもいまはや十三になり
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まひしを@@@つけてもかなしけれなとわれ/\ははゝはか
りまし/\てちゝといふじはなかるらんやけのゝきゝすのかい
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つゝつら/\へんしはしたまはすやゝあつておほせけるは人のもつ
へきものにてはわかこにすきたるたからなしたへてひさしきれんし
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御てきたいちのそのために四千万きの大しやうにてなんかいこく
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ふつしやうとのゑんといのる物ならはあんにようせかひしやうと
にてなとかはちゝをゑさらんとなく/\かたりたまひけりれんほ
此よしうけたまはりさて此御ほとけはちゝうへののこさせ給ふかたみ
とて三といたゝきなくよりほかの事はなしをつるなみたのひ
まよりもわれにいとまをたひたまへなんかいこくへくたりつゝちゝ
のゆくゑをたつねんと又さめ/\となき給ふみたひ此よしき
こしめしたいないにてちゝにはなれみなしことなりけるをあひ
しかなしとそたてつゝはゝをなにともをもはすしそのかひ
もなく御身はさていまたみもせぬちゝのゆくゑたつねんといふは
かなさよわらはをすてゝゆくならはのこりてあとにみつからは
ひとかたならぬおもひゆへれんしにはなれてあさゆふはたもと
(上十オ)
のかはくひまもなししかりとはいひなからもしもいくさのなら
ひにていまた此よになからへてたにましまさはわさとも御
身をやるへけれとうたれたまひてあれはこそ四千万きのつわもの
とも一人もかへらねは十三ねんか此あひたをとつれさらにき
く事なし又たやすくもせんしやうへ人をやるへき事ならね
をもふにかひこそなかりけりさありとはいひなから御身のせ
んしやうとたのもしくおもひつゝつゆのいのちをなからへていまゝ
てかくはあるそとよはゝのめいをそむくならは御身五きや
くさいたるへしそのうへみち/\なんしよありたゝりをまけ
てとゝまれとくときなけかせ給ひけりれんほ此よしきく
よりもはゝのおほせもつともなり御ひさのうへにして十三年
か此あひたそひまいらせては候ヘともさりなからにんけんとう
まれきてちゝおんをしらさるはいきたるかひはなかりけりも
(上十ウ)
挿絵(上十一オ)
し又いくさのならひにていまた此よになからへてましまさん
こゝろにまか@ぬ御ありさまさこそふるさとこひしくをほし
めすへきとおもひまいらせ候なりはゝうへさまとのたまへはみたい
此よしきこしめしたとへいとまをいたすともちゝはてきのその
@@にたちゆき給ふ人にてあり御身そのことてたつねゆか
はいかゝは人ののかすへしはゝを見すてゆくならは三はう
もいかゝまもらせ給ふへしふつたにてんにやうしやうふつの
からひのなりときくなれはゝなくしていかゝほとけもあるへ
からすそのうへによ人のほうする人は三せのしよふつのほうする
とをなし事ときくなりといろ/\とゝめたまひけりれんほ
このよしきくよりもはゝのおほせをかさねてそむくにあ
らねともせけんに申つたへしはたつとくしてむつましから
すむつましくしてたつとからすはゝむつましくしてた
(上十一ウ)
つとしとうけたまはりて候なりゆみやのいゑにむまれきてちゝ
のゆくゑをたつねさらん事ともはほくせきにことならすもし又
みちのなんしよにてつゆときへてもあるならはちゝの御をんに
ほうせさらんやちゝにたつねあひまいらせはゝもろともに一
しよにすへいきての御をんにほうせんためなりたゝ御いと
まをゆるしたまへとなみたとゝもにのたまひけるかつ御ち
このこゝろのうちのあはれさなにゝたとへんかたもなし
寛永十年五月吉日
燈臺記正本
(上十二オ)
とうたいき
四たんめ
さてもそのゝちいたはしやなはゝうへ此よしをきこしめしこひし
き人にたつねあひむかへんと申にそはんしをわすれたま
つゝそのきにてあるならはさらはいとまをとらするそ
たつねゆけとのおほせなりれんほなのめによろこひて御たけ
三寸のこかねほそんをはたのまもりにいれ給ふそのときはゝ
うへれんほにむかひかのほとけと申せしは四十八くわんをはし
ますあみたふつこれなりしうらうきやうにとかれたりねん
ふつの人をはあみたつねに廿五のほさつとなりまもり給ふと
きくなれはみちにてなんしよのあらんにもなむあみたふつと申
へしそのときせいくわんあやまたすかならすまもり給ふへ
きとよく/\そひへたまひけりれんほなのめにをほしめし
(下一オ)
はゝうへの御なこりさま/\をしくはうへといとま申てさらはとて
をもてをさ@ていてらるゝいたはしやなはゝうへはなをもなこりを
し@ひつゝかとをくりしていてたまひていかにれんほきゝたまへた
@へはちゝにあふたりとも又はたつねあはすともいそひてもとらい
わかきみにくにゝなかゐをしたまひてはゝにおもひをかけた
まふなれんしにはなれてこのかたはわするゝひまのなかりし
にいま又御身にわかるゝ事ひとかたならぬおもひそやはるかに
へたちしみちなれはいつあふへきともおほへぬなりうらめしき
よとてふししつみてそなき給ふいたはしやなれんほはおもひた
ちぬる事なれはいとま申てさらはとてなこりのそてをふり
きりてなんかいこくへとくたらるゝいたはしやなはゝうへはちから
をよはせたまはすしひとまところにたちしのひふしまろひて
そをはしますいたはしやなれんほはしらぬみちへとまよひける
(下一ウ)
挿絵(下二オ)
あはれなるかなわかきみはすみなれさせ
たまひしはゝのもとをはなみたと
と@にたちいてゝなんかいこくへとくた
らるゝしらぬみちの事なれはあさ
ゆふの御つとめにもなむやりやうしゆせん
のしやかによらいむりやうしゆのあみたふつ
あひみんなふしうされたまへといのり給ふそ
あはれなれまことにはやふつしんもなふしう
やまし/\けん月日のひかりあきらかにさん
しんすいしんこらうやかんにいたるまてまも
り給ふそありかたやかゝたる山にむかふとき
もなむあみたふつと申なりみつの大かをわ
たるにも又はふねにのるとてもかのみやうかうを
(下二ウ)
となふれはおもひからさるていとうかたけの
はしいてきけれまん/\たるたにふかきも
もりのともしひありとをき大かにのそめは
ふねいかたとなつてなんなくむかひにこした
まふふるさといてしそのとき
にてんとうゆきのふりつみしか
くさはのけしきみるときはみち
にて一とせとりたるかとこゝろほそさはかきり
なしたにのをかわのをつるまてうちとけかほ
にやみへつらんふるすをいつるうくひすのは
つね@れなるこゝちしてかきねのむめかへちり
そむるきさらきはかりのころかとよ
かすみかくれのかりかねもこしぢ
(下三オ)
へかへるとうら山しくいつかわか身もふる
さとへかへるへきとはしらすしてたひの
くるしさつかれにもはゝのみこひしくお
ほしめしまたせたまはんいたはしやとおもひ
やるこそかなしけれきしのやまふきいはつゝ
しみやまかくれのをそさくらのこるゆき
かとうたかはるまつにかくるゝふちなみのくさにま
きれのうのはなかさねをさゝかもとにさきつゝく
さみたれはれしとも山ほとゝきすをとつれ
てむかしわすれぬたちはなやほたんあやめか
かきつはたすみれうきくさはれかすみつ
ゆむすひそめあきしりかほにやをみなへし
ききやうかるかやわれもかふしをんりんとう
(下三ウ)
はきのはなすゝむしまつむしくつわむしまくら
のしたのきり/\すこゑもやう/\かれ/\にうきよ
をかなしむこゑやらんわれともにそなきあ
かすやう/\ふゆにもなりぬれはあらし
こからし山をろしふりつむゆきに身はひゑ
てせんかたなふそおもひけるゆきゝの人の
あらはこそふるさとへはことつてせめしたひ
にあしはゆきにやけ御身もつかれたまひつゝ
くちきのもとにたをれふしいきもはや
たへ/\にまなこもくらくなりゆけはあ
はれはゝのいかはかりせいしたまひしに
たちいてしちゝにはあはすはゝにははな
れてみちにてはかなくならん事なに
(下四オ)
よりもつてかなしけれちやうごう
ならはふるさとにてものかるへき身
にあらねともはゝこのひさのうへ
にしてはかなくなりし物ならはせめ
てはよみちもこゝろやすくおもふへき
身のさはなくしみちにてはかなくなりたるとは
はゝこのしろしめされすしとし月をかそへ
つゝまたせたまはんいたはしやとたのむかたとて
はみたのみやうかうちゝの此よにま
しまさはめくりあはせてたひ給へ
もし又むなしうなりたまははひとつはちすの
ゑんとなさせ給ふへしふるさといてしこのかた
はみやうかうわするゝ事はなしたゝさいはうへ
(下四ウ)
むかへたまへやなむあみたふつみたふつと十へんはかりとなへつゝし
たひにこゝろよわくなりすてにはかなくなり給ふかのわかき
みのこゝろのうちなにゝたとへんかたもなしかゝるあはれのをり
ふしすてにそのよもやはんはかりの事なるにいつくよりかはし
らねとも御そう一人まくらもとにたちよりてさて/\なん
ちはをやかう/\の物なれはちやうこうなれともかへすとてかう
はしきくすりを御くちにいれたまへはれんほすこしこゝろ
なをり御めをひらきたまひけりそのときにかの御そうわれ
をはたれとかおもふらんなんちかちゝか身をはなさすしんじ
あみたほとけなりなんちかちゝか身にかはりいまた此よにあるそ
かしわれしんつうにてあはすへしこれよりもなんかいこくへは
ほとちかしたいりにちゝはあるそとよそうなくはあひかたし
されはほとけうらんとてたからかにいふならは此せかいはむぶつ
(下五オ)
のくににてほとけといふなをしらぬなりいつくよりそと人とはは
これよりさいはうしやうととて大きなるせかひありこくらくと
これをいふ一こゑみやうかうとなふれは八十をつこうのつみ
をめつしこせのくわんかなひつゝわうしやうするといふならは
あたひをこきらすこふへきとせんしあらんそのときにちゝ
にかへてとるへきなりたとへはそのほとけてきわうのてに
わたるともなんちにはなれ給ふましとてかきけすやうに
そうせ給ふあはれともなか/\申はかりはなかりけり
とうたいき
五たんめ
あはれなるかなわかきみゆめのさめたるこゝろかなけにやま
ことに御そうのよろつをしへたまひし事ありかたくをほしめ
しちゝの此よになからへてましますよしうけたまはりてあし
(下五ウ)
もかろくなり給ふこかうのてんもひらくれはくちきのもとをは
又こゆへきとおもひきやあしにまかせてゆくほとになんかいこ
くにそつき給ふたいりのうちをそけんふつすとうさいなん
ほくに四千しやうにしろかねのついちをつきこかねのもんをたて
られてみうちにいりて見たまへはるりはりめのふをちりはめ
きん/\しゆきよくをみかきたてたまのすたれをかけさせやう
らくたまをつらねつゝきんべいのきにすゝなりてかせにした
かひゝきおふこくらくしやうとのしやうこんもこれにはしかし
とみへたりけりみかとのふしにあんないしてほとけうり申さ
んとたつからかによははるなりしんかはこれをきゝしらすそ
のなかにもつうしありてみかとへそうもん申けるみかとゑ
いらんまし/\てまろは大こくのあるしなれとほとけといふ
なをしらぬなりあき人めせとそおほせけるうけたまはるとてれん
(下六オ)
ほを御まへにめされけるみかとなのめにをほしめしさあら@
ほとけをまいらせよいかに/\とありけれはうけたまはるとて
やかてほとけをまいらせあくるみかととりあけ見たまへはし
まわうこんの御かたちいつくしくをはしますみけんひやくか
うはにめくり七百くてい六百まんのふ十はうせかひをてら
すなりむけかうふつのひかりにはむしゆのあみたさしてけ
んふつをの/\をかまれたりけれはみかとをはしめたてまつ
りくきやう大しんてんしやう人ていしやううんかくもろともに御
しひのひかりにてらされみなこんしきのことくなりみかとあ
まりのたつとさにたんのうへにかうさをしき御ほとけ
をらいしておほせけるは此御ほとけの事かとよまろにつ
けてのたまはく一しやうはついにかきりありゆめまほろし
のことくなりこしやうはなかきすみかなる物はやくほたひをね
(下六ウ)
かふへしとまさしくゆめにみへ給ふは此御ほとけの事なるへ
しあらありかたやあたひをかきらすこふへきとせんした
ひ/\くたりけるいたはしやなれんほはほとけの御しろ申さんと
するところにをもてのかわをはかれつゝかみはてんをさしてをへ
のほりひたいにとうたいをうちてひをとほしたるはさなか@
おにのことくなりいとけなき身のかなしさはしきりににけて
そのいたりけりいたはしやなれんしはかの御ほとけをつく/\とみ
たてまつりてこゝろにおもひけるやうはあらふしきやあのほ
とけはわかあかまへしほとけなるかいかにとしてか此くにまてう
りこふほとけとなり給ふとをもへはくちをしく物はいはれすた
たにらみたるはかりなりれんほ此よしみるよりもほとけの御
しろ申さんとするところに御まへなるきしんかにらみ候いか
なるものそととはれけれはみかとゑいらんまし/\てけに/\
(下七オ)
おするはことはりなりあれこそ一とせさいしやうこくより此くにへ
大しやうにむけられしれんしといへるものなるかやゝともすれは
此くにへたひ/\あしんなるによりをもてのかわをはきとう
たいをうたせつゝそくきとなつけあるそかしいかに/\とあり
けれはれんほ此よしきくよりもいつしかこゝろかはりつゝさか
りまちゆくあさかほのひにあひたるかことくにてたゝしほ/\
とそなり給ふをつるなみたのひまよりもこゝろにおほしめす
やうはさてはみつからこひしゆかしとおもひつゝはる/\たつね
くたりたるさてはちゝにてましますやあらをそろしの御すか
たやいまたたいないにてはなれて候へはもとのすかたはしらねとも
あらなさけなの御ありさまやといつしかをそろしくおもひつ
るにひきかへてなつかしくをほしめしはしりよりてもこれこ
そはたいないにてすてられし御こにては候へと申たくはをもへとも
(下七ウ)
てきのこゝろをはゝかりてさあらぬていにて申されけるはさ
てはそくきはつみふかきものにてあり此御ほとけと申せしは
しひたい一の人なれは一さいしゆしやうのつみにをつるをかなし
みてまつせのあひた六しのみたをなむあみたふつととなふ
る人わうしやうせさるはなかりけり十こゑ一こゑきらひなくたゝ
ねんふつを申ならはりんじやうのときにはそのきやうしやのせん
こにむかへたまはすはしやうかくをとけしとちかひ給ふしよふつ
はかやうのせいくわんましますねんふつのおやしよふつほさつ
は此しひをもつてしよくわんとこうし給ふなり此とうたいきを
よく見るにむけんのあひちこくにもをとるましされは一百三十
六ちこくにもあみたふつのせいくわんにももろともにをちたま
ひてしゆしやうのくにかはり給ひ六たうのふけの御ちさうも
しやうふそくのすかたにてほのほに身をこかしさいにんのくに
(下八オ)
かはり給ふなんねんほたひのさい人もなむあみたふつと申なら
大ゑんま大しやくのつみをゆるしちこくをいたしたまひつゝこく
らくへまいる事なにのうたかひかあるへきやましてや此とうた
いきわうめいにしたかつて此くにへむかふ事わたくしのとか
にはあらすくにをたもたせ給ふへきそのちよくちやうにし
たかはさらんやほとけのかはりたまはりてもゆめのうちのたくはへ
なりあはれ此とうたいきをゆるしたまはん御しひをもつてしゆし
やうともにこくらくたからをつませたまひつゝむこくのらくに
かへん事こんしやうのしよくわんもこと/\くかなひ給ふへきな
りと一ときはかりせつほうをよのつねならすとき給へはき
みもしんももろともにふるなのへんせつもくれんのしんつう
かとてすいきのなみたをなかさるゝやゝありてみかとはおやこ
の事とはしろしめされすさてもやさしきこゝろかなほとけ
(下八ウ)
挿絵(下九オ)
の御しひおほしとてわれこそたからをとらすとものそむところ
のねかひ此とうたいきをとらせんとせんしたひ/\くたりけ
れはれんほはゆめかとうたかはるひたりみきの大しんたちけにあり
かたきちよくちやうそとをの/\なみたをなかさるゝかゝりける
ところにあるてんしやう人の申けるは此とうたいきをゆるした
まひてまつたいのれいにやならんとしあんふかくそ申さるゝ
みかとゑいらんまし/\て申すところはことはりなれとも大こくの
きこへもはつかしゝりんけんあせのことしいてゝ二たひかへらぬ也
一たひほとけのかはりにさためつゝいかてさる事候へきとらせよ
との御ちやうなりもつとものしたひとてやかてかくこそたすけ
けれいたはしやなれんしか十五ねんか此あひたうたれしとうた
いをぬきなわをきり物いふくすりをくちにふくませいかに
れんしよをのれめはふしきの物にてほとけのたすけ給ふなり
(下九ウ)
とくしていてよとありけれはれんしゆめのこゝろにてさら
にまことゝおほへすあきれはてゝそをはしますとにもかく
にもかのれんしれんほのこゝろのうちのあはれさなにゝたと
へんかたもなし
とうたいき
六たんめ
いたはしやなれんしはゆめのさめたるこゝちにてあき人にう
ちむかひ申されけるはいまはなにをかつゝむへきこれは一とせさ
いしやうこくより此くにへ大しやうにむけられしれんしとい
るものなるか@かたのものともこと/\くうちまけぬれはちから
なくからめとらるゝくちをしさよをもてのかわをむかれつゝつ
れなきいのちをなからへて十五ねんか此あひたよるひるとひを
とほされたま/\もひのきゆれはしもつをもつてさいなみける
物いはぬくすりをくちにふくめは物いふ事もあらはこそうき
(下十オ)
もつらきもかたりなくなくさむ事もなくたゝふるさとのこひし
きにもこゝろのうちにはみたのみやうこうとなへ申しるしに
やかゝるふしきに御たすけをかうふる事こそありかたけれ
さりなからそのうりたまひし御ほとけはわかあかまへしほと
け也われせんしやうにいてしときふさいにわたし申せしか
わかくをあはれみ給ひつゝこれまてけんし給ふかやさて又御み
はいかなる人そいつくよりかはきたりたまひてわれをたすけ
給ふそやありかたさよとてまつさめ/\となき給ふれんほ
此よしきくよりもつゝむとすれとしのひゑすちゝのたも
とにすかりつきしりたまはぬもことはり也これこそさいしやう
こくにてたいないにすてられし御こにて候へしかせいしんするに
したかひてみつからちゝの御ゆくゑをはゝこのかたりたまひつゝ
@ゝをよひしをたよりにてあしにまかせていつれともおさ
(下十ウ)
なきものゝ事なれはたゝはうせんとあるところにあれなる
ほとけの御むさうにていま又御身にあふ事はひとへにほとけ
の御つけそや又はちゝの御をんなりありかたさよとてふししつみ
てそなき給ふれんし此よしうちきひてさてははゝかたいな
いにてこゝの月と申せしにわかれしこにてありけるかたねまき
そめしなてしこのくさのゆかりをみるからにうつゝとさらに
わきまへすおやこもろともとりつきてうれしなきにそみ
へ給ふいたはしやなれんしはをつるなみたのひまよりもさて/\
なんちかはる/\とこれまてたつねきたれともあひみんかいこそ
なかりけりそれをいかにと申にとかあるものはそのけうちう
にしたかひてるさいしさいにためしおほきそのなか@おもて
のかわをはかるゝ事せんたいみもんのためしなりいまたしな
さるそのさきに六たうへをちたれはいまはこしやうをたのみ
(下十一オ)
ありそれをいかにと申にちゝたるはるのひにもまん/\たる
あきのよもしきもつをあたへねはかきたうにをちたるな
りけんとうそせつのさむきにもころもをさらにかきねゝはか
んちこくにことならすきうか三ふくのあつきにもともしひ
いたゝく身なれはせうねつ天せうねつにをちたる也つるき
は身をきりをもてのかわをはくなれはしゆらたうにこと
ならすしやけんほういつにあたらるれはちくしやうたうへお
ちたる也まくらかたふけまとろむとてともしひすこしきゆ
れはしもつをもつてさいなみけるよるひるやすむ事もなし
かやにむかひてなけくといへともあはれをたれもしる人なし
うらめしかりしをりふしなんちこそいひてわれをたすく
これなんちかはかり事とをほへすひとへにほとけの御つけそやあ
りかたさよとて又さめ/\となき給ふをつるなんたのひまよ
(下十一ウ)
りもなんちかなをはなにといふそとありけれはれんほと
申なりふるさと御はゝうへさそやなけかせ給ふらんとくして
いてさせたまへといふあはれなる事かきりもなし此事なを
もかくれなくしんか大しんきこしめしためしすくなきした
ひとてやかてみかとへそうもんあるみかとゑいらんまし/\てい
またみもせぬちゝをこひし@をもひつゝはる/\のなんしよ
をこへたつねてきたるこゝろさしひとへにほとけのけしんなり
まろはよつきのわうしなしれんほをくらゐにつけ申さん
われにくれよとちよくちやうあるれんほおほせかしこまつ
て申あくるせんしをそむくにあらねともふるさとにはゝをも
つて候かさこそをそしとまちたまはんちゝをさいしやうこ
くにをくりつゝかへつてせんしにしたかふへきとさいさん申
されたりけれはかたしけなくもみかとよりきよいをたまはり
(下十二オ)
ちゝにきせよとありけれはれんほよろこひかきりも
なしさてあるへきにあらされはおやこの人々まつかたはら
にそのしのはれけるいたはしやなれんほはこくうにむかひて
をあはせなむあみたふつみたによらいねかはくはいま一とちゝ
のれんしをもとのすかたになしてたへとかんたんくたき申さ
るゝふつりきふしきのゆへによりほとなくれんしはもとのす
かたとならせ給ふそめてたけれこきやうへはにしきをきてかへ
るといへるほんもんとはいま此れんしか事そかしさるあひた
れんほはなんかいこくよりあまたの御ともひきくしてさ@@
やうこくへといそかるゝいそくにほとなくつき給へはれんほ
はそれよりはゝにまいり此よしかくと申さるゝはゝはゆめ
ともわきまへすいそきはしりいてたまひてれんしのたも
とにすかりつきまつきへいりてなき給ふをつるなみたのひま
(下十二ウ)
挿絵(下十三オ)
よりもなけきてもか@@@とていそきみかとへさんたいある@
いしやうこくわうゑいらんあつてれんしを御まへにめされける
れんし御まへにまいりつゝなんかいこくにてをもてのかわをはか
れし事とうたいをうたれし事一々にそうもんあるみかと
ゑいらんまし/\てかやうの事をきゝなからうきよになからへ
せんなくとほうわうとなり給ひてれんしをくらゐにつけ
給ふれんほかはゝはきさきのみやとそ申けるてんかのうへもと
あかめ給ふそめてたけれけんしんしくんにつかへすていちより
やうふにまみへすとはいま此れんしか事そかしさるあ@@
れんほはちゝはゝをくらゐにつけいとま申てさらはとてあま
たのつわものひきくしてなんかいこくへといそかるゝいそくに
ほとなくつき給へはやかてみかとにさんたいあるなんかいこくわ
うゑいらんあつてれんほをくらゐにつけたまへはれんほくら
(下十三ウ)
ゐにそなはりてめてたき事はかきりもなしむかしはさ
いしやうこくなんかいこくそのあひたはあしくしてまいとの
かつせんありつるかいまはふしのみかとゝなりくにもゆたかに
たみさかへをさまるみよとそなりにけりきせん上下をし
なへてかんせぬ人こそなかりけり
寛永十年五月吉日
燈臺記正本
(下十四オ)


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