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熊坂長はん

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校正

翻刻にあたり、古浄瑠璃正本集刊行会編『古浄瑠璃正本集第八』(大学堂書店、1980)所収の赤木文庫蔵本(底本と同一、以下【古】)本文と比較対照した。
(五ウ・5行目)【底】@そ—【古】[に]そ

翻刻

熊坂長はん
初二段
さてもそのゝち御さうしは吉次きちない吉六とうちつれて
かゝみのしゆくをたゝせたまひてあつまをさしてぞくだられけるいそ
かせ給へばほともなくみのゝくにゝかくれもなき大ばかしゆくき
みのちやうにつかせ給ふか八十四つのつゝらかわごをきりとのわき
にぞつまれけるさんびきののりむま四十二ひきのざうだ
ともくれたけはやしにつながれけるこゝに又あをのがはらによ
りきするぬす人どもはたれ/\ぞまついちばんにゑちごとし
なのゝさかひなるくまさかのちやうはんおやこ六人ざするぜんくわ
うじのなんたいもんのゐばからいのむまのぜう五てうのよじにさ
いぐちの七郎はつだのぎやうぶかいつかみのわし次郎まどを
のぞくはそらめくらよひにぬつたるなまあぜをあかつきはしる
けら二郎でんがくかくぼにはともをまよはすきつね三郎をなし
(一オ)
挿絵(一ウ)
挿絵(二オ)
くいたち二郎ふしにばんどうしばんどうなひいづのおやまのやけした
の小六とて此人/\をさきとして大しやうは七十よ人つがう三百人には
すぎさりけりあをのがはらによりきし大まくみへにうたせつゝたい
へいかきすへわれらがたからをのまばこそきちじかかわごをのむな
るにのめやうたへやもつともとてまふつうたふつさかもりしてこ
そあそびけれかゝりけるところにくまさかのちやうはんはよものなり
をしつめめん/\はなにとおもひさためて左様にさけをまいるそやいで
/\ちやうはんかぬすみはしめしゆらひをかたりてきかすへしそれ
かしがおやと申はゑちごとしなのゝさかいなるくまさかといふところ
にほとけのようなるまたうどなりそれかしはいかなるぶつしんの御
はからひやらん七さいのとしよりもおかのかうといふところにてをぢ
のむまをぬすみとりいひだのいちにてうつたるにすこしもしさひ
候はすそれよりもぬすみはもとてもいらずよきあきなひと思ひ
さだめて日ほんごくをはしりまはりてぬすみをするにつゐにいち
(二ウ)
ともふかくをかゝぬなりさてちやうはんは子ともを五人もちた
るが太郎と申はひるがんとうのじやうずなり二郎といふはしの
ひがじやうずて候なり三郎はようちがじやうす四郎と申は
馬をぬすむがしやうすなりさてまた五郎は人かとはかしてさとが
しまにてうりけるにすこしもしさいか候はすこのものともはいぢ
ごすくへきのふをもちて候なりなにとやらんこんやはちやうはんがむ
ねこそさはげあつはれ三百人かそのなかにさいかく人のあるらんに吉次
がやとへゆき給ひてうちのけこを見てまいれ人/\たちとありけれは
人おほきそのなかにいつのおやまのやけしたの小六は此よしをきくよ
りもなにかしが見てまいらんといふまゝにかきのすゞかけしか
まのときんをまゆはつかにひつかふであふはかのきみのちやうの
もんぐわひにせつなかあいだにはしりつき大おん上てはよばはりけるくま
のさんの山ふしぶつほうしゆぎやうのそのためにおくまつしまへとをる
なり山ぶしはせんにんあまり候かこんや一やのほいたうたへとよばはりて
(三オ)
挿絵(三ウ)
挿絵(四オ)
挿絵(四ウ)
挿絵(五オ)
うちのけごをしつかにみてこそとをりけるやゝありてうちよりもよねの
たはらをなけいたす小六このよしみるよりもものゑのかといてになはかゝ
りたるものこそいまはしけれとおもひつゝこしのかたなをひんぬいてかけ
なわはらりときつてすてよねをすこしとり給ひあをのはら
@そかへりけり
三四段目
さてもそのゝちやけしたの小六はあをのがはらにはしりかへりても
とのさしきになをりつゝ二のいきをほつとつくちやうはんこのよしみる
よりもいかに/\と申けるさん候ゑものはいかほども候なり八十四つ
のつゞらかわこをきりとのわきにつんだるはたからのやまのことくな
り三ひきののりむま四十二ひきのざうたともみなよきむまに
て候なり四十よにんのひやうしのものゆみやり大たちをつとりそへ
やうじんするとは見へけれともれいのとうづきあつるならばきやつは
らはみな/\ゑんのしたへかくれべしそのひまにむまかわごもやす/\
(五ウ)
とはとるべきがこゝに大じの候と申けるちやうはんこのよしきくより
もいまにはじめぬやけしたとのゝ大じとはいかなる事にて候ぞと
申ける小六このよしきくよりもまつ/\かたりてきかせ申べしいにし
ゑきちじかつれてもくたらぬ十四五なるしよくわんが一人候がこのわつ
ばがいしやうのていを見たるところはいろしろくじんでうなるがはだ
にはまたどんぎんといふものをぞきたりけりうへにきたるひたたれは
日ほんのきぬにて候はすからきぬにて候がぢをば山ばといろに一は
けそつとはかせ十八五しきのいとをもつてものゝ上ずがぬいをぬい
て候なりまづゆんでのひほつけにはいがきとりいしやだんにこまいぬ
をぬうてありさてまためてのひほつけにはたけくらぺにすぎを三ほん
ぬふてげんしのうぢ神しらはとが十二のかいこをそだてはぶしと/\をく
いちがへばつとたつてはおりまひあそひしいわゐのところをあり/\と
ぬうてありうしろのきくとぢにはきた山殿のさんさうすみよしのすい
ひんおむろの御しよのけいきをあり/\とぬうてありさて又はかまの
(六オ)
挿絵(六ウ)
挿絵(七オ)
くたりにはしぐせいくわんをまなんでたうどのましもせんひきにつほん
のましもせんひきたうどのましは大こくなればせいを大きくおもてをし
ろくぬうてあり日ほんのましはせうこくなればせいをちいさくおもてをあか
くぬうてありたうどのましはにつほんゑこさんとす日ほんのましはたうど
ゑこさんとすこそうこさしのかまんのさうのところをげにあり/\とぬう
てありさて又はかまのけまはしにはいわにまつつるにかめいせきにかゝる
かわやなきおきのなみぢどうとうつてさつとひくしほさかひをげに
あり/\とぬうてありさてまたきたるはらまきはもへきおどしで候
なりよのつねのはらまきはくさすりを八まひさぐるが此くさずりは十二
まひくさすりにしろかねこがねをもつてやくしの十二じんをいが/\とあらは
すさいたるかたなはこかねつくりなりとつつけさやぐちにはくりからふ
とうみやうわうのたきつぼへとんでをりけんをのふだるところをげに
あり/\とそほりにけるおもてのめぬきはふたうのたいうらのめぬき
はくらまの大ひたもんの御しんたいをあらはしさげをにはほけきやうの
(七ウ)
七のまきやくわうほんをみながれくんで候なりもつたるたちは二しやく
七寸かとおぼへたりせつばもゝよせうんどうかねいふとがねまことの
めぬきそらめぬきせめしば引いしつきかはさきにいたるまてでう
ぼんのこがねをもつてひかめきわたりてみへてありきたるゑぼしは
六はらやうのたうせいむきのつぶのすこしあららかなるを一くせくせ
てひなかたにあひをあらせくしかたをいか/\と一ためためてひたりへおり
たるゑぼしなりひんのかみはちゞみたりまゆのけわかつたりきのふかけふ
の山いでと見へにけり此わつは木ならばしたんとりならばはうわ
うかねならばしやきんなりさてまたむかしをとるならばけんじの
大しやうたうせいやうをとるならばきよもりかむねもりの御きん
たちにてましますかけいぼのなかににくまれあつまときひて
きちじをたのみてをくへくだるとおほへたり此わつばかめのうちを
たゞ一め見たりしがゆたんするものならは三ひやく七十よにんのぬす人
のほそくひはたすかたくそおぼへたる
(八オ)
挿絵(八ウ)
挿絵(九オ)
五六たんめ
さてもそのゝちちやうはんこのよしきくよりもやけした
どのゝものかたりさらにこゝろもさんぜぬなりそのわつばかなにと
もはやらははやれこのちやうはんがほうをもつてたゞひとうち
のしやうぶなりよはなんどきそ八つのころときはよきそや人々たち
はやうつたてやもつともとててんでにたいまつとほしつれあふはかしゆ
くのきみのちやうのもんくわひへのゝめきわたつておしよするみなもと
このよしきこしめしさてこそよたうがきたるとそおほしめしわ
ざとおもてのしとみを二三まひとつてゑんよりしたへなげをろしよす
るかたきをまちたまふくまさかの太郎はくろかはのとうまるきてかみ
をはつとみだしつゝたいまつに火をつけて人はないそたゝまいれ/\とげ
ぢをなすみなもとこのよし御らんじてきやつはくせものかなきらばやと
おほしめしはしりかゝつていかづちきりとなつけつゝちやうときつて御らんずれ
(九ウ)
ばむざんや太郎はあへなくくびをうちをとされてくびはうちへころびければと
うはそとへそたをれけるくまさかの四郎はこのよしをみるよりもいそきは
しりかへつてなふいかにちやうはんさま太郎こそてをおひてそうろうなり
ちやうはんこのよしきくよりもそれはいたでかうすてかと申ける四郎
きくよりもいたでやらうすでやらくびかうせてそうらうなりちや
うはんこのよしきくよりもさてもむねんのしだひかなそのわつばには
てなみを見せんといふまゝに八しやく五寸のばうをもちくきなかにと
りのへみなもとにわたしあふみなもとこのよし御らんじてちやうはんか
もつたるぽうを壱尺おゐてはづんどきり二しやくおゐてはつんどきり
てもとばかりのこされたり三びやく七十よにんのぬす人みなもとをまんな
かにおつとりこめ火水になれとぞせめにけるみなもとは御らんじてたまに
なれたるほうらいのとりのふせいもかくやらんをどろくけしきはなか
りけり大ぜいにわつて入くもてかくなは十もんし八はなかたといふものに
さん/゛\にきり給へば天わうづまい大ぢはあけにそめかへてれうがみつ
(十オ)
挿絵(十ウ)
をへくもをわけてうへあがることくなりいまだときもうつさぬまに
くつきやうのぬす人を八十三ぎきりふせたりちやうはんこのよしみ
るよりもぜひともそれがしがてなみのほとをみせんといふまゝに
六しやく三寸のなぎなたを水くるまにまはしつゝみなもとにこそは
きりかゝるみなもとは御らんしておほくのかたきにあひほねはおらせ給ひ
けるうけたちになりてすこしひかせ給ひけりちやうはんこのよしみ
るよりもこれはよきぞとこゝろへてすきまもなくこそかゝりけ
れみなもとは御らんしかたきのかたへきりのゐんをむすんでかけ御身に
こたかをめされつゝちやうどきつてみ給へばむざんやなくまさかはまつ
かうふたつにきりわられあしたのつゆときへにけりそれよりもみなも
とはおくへくだらせ給ひつゝてんかをおさめ給ふ御ざうしのこゝろのうち
なにゝたとへんかたもなし
寛文二年正月吉日
開之
(十一オ)


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