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清水の御本地

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校正

翻刻にあたり、横山重校訂『古浄瑠璃正本集 第一』(角川書店、昭和三十九年)所収の前島春三氏蔵本(底本と同一)本文と比較対照した。
(一オ・13行目)【底】いわゐ—【古】いわい

翻刻

清水の御本地
初段
さてもそのゝちせいすいじのくわんをんのゆらひをくわしくたづ
ぬるにたんばのくに中さとゝ申所にくにひろ太夫と申てちやうじや
壱人おはしますたからはいゑにみち/\てなにゝつけてもふそくなし
御子四十八人おわしますことに四なんくにはる殿はぼだいのもん
に入給ふちやうじやふうふの人々はひとつ所に入給ひあの四郎こそ
おやにかうをなすのみならすぼたいのみちにいりけれはあの四郎に
よをゆつりなからんあとをもとはれんとてやかていゑのたからものこ
と/\くゆつりたまへばきやうだいの人/\はひとつところにあつま
りていかにをの/\きこしめせわれらがおやのたからものをあの
四郎が一ゑんに取事いかさまわれ/\をおやのまへにてさんぞうしける
とおぼへたりいざや四郎くにはるを大ぜいにておしよせうつてすて
んと申さるゝよくしんふかききやうだいともぢこくうつりてかなふまし
こんやようちにすへきとてくんびやうをもよふしてくにはるのやかたを
(一オ)
挿絵(一ウ)
挿絵(二オ)
ふたへみへにとりまはしときのこゑをぞあけにけるやかたのうちには思ひ
よらさる事なればうへをしたへとかゑしけるされとも爰になびかの
八郎ひてなをとなのつて出なにものなれはらうぜきやそのなを
なのれと申けるきやうだいの人々はいかに四郎たしかにきけきや
うだいのものともをおやのまへにてさんそう申けるいこんこゝに
あらはれたり去ながらきやうだいのよしみにはいのちばかりをたすく
るぞいつくへなりともおちゆけと大おんあけてそよばはりけり
国はるは聞しめしさてはきやうだいの人々かやさても父くにひろ
どのわれにたからを給はる事てんのをしへとおぼへたりわれはざんそ
う申さぬ也おそろしのきやうだいやとなみたをながしの給へばきやう
だいの人々はたゞうちとれや人/\とていくさははなをぞちらしけるあら
むざんやくにはる殿のつはものともみなこと/\くうたるればかなわ
じとおほしめしはらをきらんとし給ふをかたきのつはものおりあひ
やがていけとり申たかてこてにいましむるくにはる殿のこゝろのう
ちむねんなるともなか/\申斗はなかりけり
二たんめ
さてもそのゝちものゝのあはれをとゝめしはくにはる殿にてしよじ
のあはれをとゞめたりいたはしやくにはるどのをと有ところに
いましめきやうだいの人々はいゑのらうたうにさゝ山の二郎とき
なりをちかつけいかにときなりあのくにはるを山中へつれゆきて
ちうせよと仰けるときなりうけ給はり御でうかしこまつて候
さりながら三だいさうおんの御くひいかでかうちたてまつるへきあはれ
たゞちよのものにおほせつけられ候へかし御めんあれとそ申ける兄
弟は聞しめし大きにはらをたつてさては御へんはこゝろかわり
とおぼへたりそのきならばまかりたてとありけれはときなり
きいてこゝろのうちにおもふやういやそれかしぢたひ申ともいたはしや
くにはる殿ついにはうたれ給ふへしそれかしがてにかけて御あととふて
まいらせんと又きやうだいにうちむかいたゝいまのおほせはそれかしが
こゝろを引み給ふとそんしいなと申て候うてと候はゝかしこまつた
りと申けるきやうたいなのめにおほしめしとく/\との給へばう
け給はつてくれゆくよわをまちにけりすでにせいざん山に入日も
たそかれになりぬればいたはしやくにはる殿をと有山かげにおん
(三オ)
挿絵(三ウ)
挿絵(四オ)
とも申いかにくにはる殿きやうたいの仰にはこゝにてちうせよとの
御でうなりいたはしくそんすれとも御さいごのよういあれとなみ
だをなかし申けりくにはるは聞しめしさてはこゝにてきるへきよなち
からなしときなりまことにしやうしゆせんねんもついにはめつする
ならひましてらうしやうふじやうのわがみなればなげいてもかなう
ましさりなからいまかわかれの事なれはたねんによみし御きやうよむへき
と申さるゝときなり承り御こゝろしづかに御どくじゆあれと申けり
くにはるこゑをあけ給ひありがたや大じ大ひはさつたのひくわんちや
うこうやくのうてんはぼさつのぢきたうとかやねがはくはむゑんの
ぢひをたれくだらくせかいへすくいとらせ給へりんきよくじゆ/゛\ねび
くわんおんりきたうぢんだん/\ゑとの給ひてはやくびきれとあり
ければときなり此ことはりをかんじ此きみをうちたればとて千ねん
のよはひまんねんたもつにてもなしくにはる殿いづる日あすはなに
ともならばなれ御いのちをたすけ申なりとて十町ばかりおくりつゝ
其身はまたはら十もんじにかき切あしたのつゆときへにけるかのとき
なりが心中たのもしきはなか/\申斗はなかりけり
(四ウ)
三たんめ
さてもそのゝちあらいたはしやなくにはる殿らうとうのなさけ
によりふしきにいのちたすかりてなみたと共にゆく程にはやこゝのへ
に着給ふあるかたはらを見給へばむねかどたかきやかたありもんくわひ
にこしをかけしばらくやすみおはします折ふしとういん殿出給ひ御身
はいつくの人にてましますぞくにはる殿は聞しめしそれかしはおんごく
のものなるがほうこうのぞみの其ためなりとにもかくにもあはれ
み給へと申さるゝとういん殿は聞しめしそのきならばそれかしにみやつき
たまへけふよりしてなんぢかなをばしんによとつくるなりあしたにはきり
をはらいしとみやり戸のたてあけしひるはものゝぐのさうぢをして
ゆふへにもなるならば馬とものゆあらいせよとあなたへはしんによこな
たへはしんによとよび給ふぞものうけれしかれともしんによはすこし
のひまにもくわんおんぎやうをてんどくして爰かしことしたまへは五百人
してなす事を一人してし給へばをの/\ふしんをなしにけるしんによは
ある日のくれの事なるにいつものねやにいらせ給へばこがねのもんあり
五ぢやうのはたほこしつほうのまきはしら心ことばもおよばれす玉 
(五オ)
挿絵(五ウ)
挿絵(六オ)
のきざはしをあかりてみ給へば十六七のひめ君のあたりもかゝやくおん
よそおひかれうひんのこゑをしてそれなるはしんによ殿かやわれこそ
は御身のつまにならんためふたらくせかいより来りたりとてしんによの
手を取ひよくれんりの御かたらいあさからずこそきこゑけれみなみ
おもてをみ給へば春のけしきとうち見へてみねのしらゆきむらきへ
て松のゑたにはくじやくほうわうさへつりめうほうれんげのはなひらき
たゞくわうめうかゞやくはかりなりたのもしきともなか/\申斗は
なかりけり
四たんめ
さてもそのゝち此事なをもかくれなくとういん殿聞しめししんによ
がねやにこそごくらくじやうどしゆつげんせりいざや立いておがまんと
戸をひらきみ給へばくわうめうかゞやきおんがくのおとせりとうゐんあ
まりのありかたさにもくぜんにたゝすめばしんによ殿は御らんしてこなたへ
とありければひめきみ御らんしてあれなるはしんによ殿のたのませ給ふ
まれ人かや是へ/\としやうじ三七日ぞおはしけるとういん殿はいとま申
てそれよりすぐにさんだいありよしをかくと申上れはすなはちぎやうがう
(六ウ)
有五きないのものともきせんくんじゆをなしにけるみかどはかのひめを
御らんしてあつはれやさしのかたちやとの給ひてくわんぎよ有しんによと
のゝ心のうちうれしきとも中/\申す斗はなかりけり
五たんめ
さてもそのゝちあはれなるかなていわうはしんによがさいぢよの事
おほしめしわすれずしていとゝ心はむらしぐれおもひのほかにあこがれく
け大じんのめされいかにかた/\きゝ給へいかにもしてちりやくをめぐらし
さい女をうばいとらんとせんし有もつとものしさいとてしんによをだい
りへ召れつゝおくよりのせんしにはいかにしん入うけ給はれなんぢかつまはてん
よりふり人の事なれは心にかなはぬ事あらじてを一つもちしものあし一つ
もちしものめを一つもちしもの又は八大りう此もの共をたつね
て大りにまいらせよそれかなはぬものならばなんぢかつまを大りへさんだい
させよとのせんじなりしん入せんじをかうむりなにとしてさやうのものは
あるましとおもへとも御まへをまかりたちかへらせ給ひてひめきみにこの
よしかくとの給ひうらめしのしだひとてふししづみてぞなきたまふ
ひめきみ此よし聞しめしそれこそやすきしたいとてみなみおもてへたち
(七オ)
挿絵(七ウ)
挿絵(八オ)
いてゝこくうをまねかせ給へばいづくよりきたりけんやがておまへにかしこ
まるひめきみ仰けるやうはいかになんちら承はれしん入殿のともをして大
りへまいりしん入殿にしたがふへしとありければかしこまつたりとて
しん入殿の御とも申やがてたいりへまいりけるみかどをはしめたてま
いりけいしやううんかくけんふつあるまづ一ばんにてをひとつもちしものゑ
んかうのまねをする二ばんにあしひとつもちしものてんがくのまねを
しておとりこへてまひあそぶ三ばんにめ一つもちしものうそふく事
こそおそろしけれ百二十ぢやうのかくのねをいだしけり四ばんに八大
りうわう御まへにかしこまりあらはに日月てらせともしやぢく
の雨をふらし大水出たいりもながるゝはかりなりみかともこれに
きもをけしいかにしん入はや/\つれてかへれとありけれはかしこまつ
たりとてかのもの共を引くしてわがやにそかへられけるさるあいたみ
かとは是にもこり給はすしてひめきみの御事をなをもおもひに
たへかねかさねてしん入をめされつゝいぜんのもの共をまるにみせける事
のうれしけれとてもの事にうたでなるつゝみふかでなるふゑをたつね
てみせよとのせんじなりしんにうちよくめいをかうむり今ははやかな
(八ウ)
わじとおもへともまつおうけを申御まへを罷立かへらせ給ひてひめ
きみに此よしかくとの給ひ今ははやちからなし御身だいりへゆきた
まはばあとにのこりてそれかしは何となるへきかなしやともたへこがれ
てなき給ふひめきみ此よし聞しめし心やすくおほしめせたづねてま
いらせんとてまたみなみおもてへたちいでこくうをまねかせ給へばふゑ
とつゞみらいけんすひめきみなのめにおぼしめししん入殿にわたした
まふしん入なのめにおほしめしすぐにだいりへさんだいあり御かどをはじめ
たてまつりくぎやう大しんけんぶつ有そのときかのふゑていじやうに
おきければ百廿ちやうのねをいだすおなしくつゝみもひやうしをあは
せてなりわたるうちよりのせんじにはつよくなれとせんじ有此ことば
にしたかいて天ちもひゝけとなるほとに五きないのなりもの此こゑ
にてひゞきわたりそらとぶとりもちにおちあたこの山ひゑの山くずれ
かゝつてみへければうちよりのせんじにはいかにしん入いそきやめてたび
給へしん入せんしをかうむりいますこし御らんあれとありければていわ
うは聞しめしかさねて御身のさいちよの事おもひとゞまり申へししん入
なのめにおほしめしふゑつゝみとゞまれとの給へば此こゑにしたかいゝ其まゝ
(九オ)
挿絵(九ウ)
挿絵(十オ)
あらはれしゆじやうさいとりやくのためちかいをあらはし給ふとかや
されば今のよにいたるまて十八日をゑんぎとてあゆみをはこぶ事
しん入ふうふの人のしやうがくなり給ふ日なるへしりんきやうよく
じゆ/\ねんびくわんおんりきとうぢんたん/\ゑと此もんをとな
ゑ此さうしを三べんよみたてまつればあくびやうさいなんまぬがれ
ふつきの身となる事うたがいなしうたかふ人はあやうかるへし
となりきせん上下おしなへてまいらぬ人はなかりけり
右此本者太夫直之以正本ヲ
写之令板行者也
うろこかたや
新板
(十二ウ)


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