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きりかね

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校正

(一オ・8行目)【底】かせん—【古】かつせん
(四オ・16行目)【底】@れしけれ—【古】うれしけれ
(四ウ・1行目)【底】@@@かけ—【古】かたにかけ
(四ウ・1-2行目)【底】@わびぼ—【古】うわびぼ
(五ウ・1行目)【底】はご@@@—【古】はごくまれ
(六オ・16行目)【底】@@@@—【古】こかるゝ
(七ウ・2行目)【底】@—【古】の
(七ウ・7-8行目)【底】つい@—【古】つい[て]
(七ウ・9行目)【底】@しよく—【古】きしよく
(七ウ・9-10行目)【底】いゝ@@は—【古】いゝ[け]れは
(八オ・16行目)【底】@@@@—【古】なくより
(八ウ・1-2行目)【底】命@@めん—【古】命の御めん
(九オ・2行目)【底】@く/\@—【古】[と]く/\と
(九オ・3行目)【底】@@@@—【古】[心中こ]そ
(九オ・3行目)【底】さあ@は—【古】さあ[ら]は
(九オ・7行目)【底】@う—【古】[や]う
(九オ・12行目)【底】な@—【古】な[に]
(九オ・16行目)【底】@@—【古】[申せ]
(十二ウ・1行目)【底】その@@—【古】そのゝち
(十二オ・3行目)【底】な@く—【古】ならく
(十三ウ・1行目)【底】うし@—【古】うし[ろ]
(十四オ・14行目)【底】@ぢ—【古】[お]ぢ
(十四ウ・8行目)【底】さいはい—【古】さいわい

翻刻

きりかね
初段
扨も其後つら/\せけんをくわんするに人としてとをきおもんばかりなきものはかならすちかき
うれへあり爰にせいわげんじのかういんしもつけのかみよしともの三なん兵衛のすけみ
なもとのよりともはさんぬるゑいりやくぐわんねんにいづの国にながされいとうがたちにまし
ます所にすけちかゞ心がはりによつてひそかにいとうを出給ひほうでうひるがこしまにう
つりもんがく上人のはからいにてせんとうのいんぜん給はりぢゑい四年八月十七日山木のはん
くはんかね高をようちにし石ばし山のかせんにうちまけ給ふといへ共まなづるいわがさきより
御ふねにめされあわかづさにつかせ給へばちばかづさ一万三千よきにて御みかたに参りそれより
むさしの国にうち出給へばはたけ山をはじめしよこくのぐんぜいわれも/\とはせあつまり御せ
い廿万ぎになり給へば今はとうごくにてにたつかたきもあらざればかまくらに御ざをすへ此比
げんじをそむきしぎやくとう大ばいとうをはじめとして一/\にからめ取かうへをはね給へばまた
のをはじめつみふかきともがらはみな平けへにけのほり又けんじにふちうなきものはされ/\ちんじ申
によつておの/\本りやう給はりけりさればよりとものいせいにはなびかぬくさ木もなかりけ
り是は扨をきかぢはら平三かけ時そがの太郎すけのぶははうでうの四郎時正にちかづき我/\大ば
いとうにかりたてられ一たん御てきにしよくすといへ共君にふちうなき事は上にしろしめされたり
(一オ)
あはれ御めんをかうむらばけふかうちうをつくし申さんとたつてそせう申けり時正聞給ひ是にま
たせ給へとて君の御前に参りかやう/\とごん上有君聞召其ものこなたへめせかしこまつて候とや
がて両人めし出すらいてう御らんしめづらしや両人われふしきのうろにしのびし時御ぶんらかなさけに
て命たすかりかやうにうんをひらく事なんじらがかうをん也よりともいかでわするべきいよ/\ちう
をつくすべしとあんどの御はん下さるゝ有かたしと三どいたゞき御前を立にけり一ざの人々なさけは
人のためならすいしくもしたる両人とてかんせぬものはなかりけりかゝる所にすけちか二なんいとう五郎
すけきよをたかてこてにいましめ君の御前に引出すよりとも御らんし其すけきよにはしよい
ありなわをゆるしてちかうめせかしこまつて候とやかてなわをとき御前ちかうめし出す君御らん
じいかにすけきよ一とせちゝの入道我をうたんとはかりし時なんじがかへりちうにてわれいとうをおちて
かやうにうんをひらきしもひとへになんしかかうをん也しよりやうをあたへつかふべしいかに/\と仰けりす
けきよ承りこは有がたき仰かなさりなからふちうのものゝ子といひ其上石はし山のかつせんにま
さしく君をうち奉らんとはせむかい候事よにかくれ候はすたゝ今御めんをかうふつて君につかへ申
事ほうばいのおもはん所なか/\いきたるかいもなしかつうは平けの御おんをふかくかうむりし身なれば
今さらげんじへつかへん共存ぜず御なさけにはいそきくびをめされ候べしとたつてごん上申けるより
とも聞召あつはれいさぎよきさふらいかなしかりといへ共おんをゑておんをしらぬはたゞほくせきにこと
ならす命のおんをうけながら其ものいかできらるべき天のせうらんもつたいなしと仰けるすけ
(一ウ)
きよかさねて申やうたゝ今御たすけ候はゞたちまち平け参り君の御@たきと罷なり申べしと
はゞかりなくぞ申ける君聞召たとへかたきと成とてもよりともがてにかけいかでちうばつせら
るべき此上は都へ上り平けへほうかう申さん共御ぶんが心にまかすべしとの御てうにて御ざをたゝ
せ給へは一ざの人々是をきゝあつはれ有かたき御てうかな扨もかうなるすけきよや君も君すけ
きよもすけきよとしばしかんしていたりけり其中にくどうさへもんすけつねぶきやうげなるきしよ
くにてかたきのたねをははらをさいてもたやせとこそ人も申つたへたりいわれぬ君の御なさ
けあつはれすけつね給はつてぢうだいにてきらん物をとつぶやきけるすけきよ御前を立けるが
此よしをきくよりもとつてかへしやあおのれすけつねきつねがとらのいをぬすみよのけだ物をおど
すがことくおのれ君のいせいをかつてさやうの事を申かそればんとうにさぶらいあまたおはすらんき
のふまて君をうたんとせしものゝけふはたちまちくびをのべまつたくさやうに候はすとさま/\ちんし
こうをこい命たすかる其中にしよりやうを給はりめしつかはれんと有をたに二ちやうの弓ひかじ
がためふりすて平けへまいるすけきよなればなんじらこときのさぶらいはものゝかずとは思わぬ也京やいなか
とさまよい身のおき所なかりし身がたま/\しよりやうにもとづきていわれぬ事を申つゝ命をすつる
なすけつねとはたとにらんて申けるすけつね大きにはらを立なんじかちゝのすけちかこそわかしよりや
うをかすめたいりやうしあまつさへ君にふちう申ゆへ天ばつのかるゝ所なくくびをきられ申也いわれぬ事
申さんより命たすかるをよろこび罷立とそ申けるすけきよきいておのれがやうにゆへなき事に
(二オ)
挿絵(二ウ)
挿絵(三オ)
ひをこうてわざをもとめんやつばらはかうらいとてもよのわづらいとなる物也其上わがあにかはづ
がかたきなればねがふ所のさいわい也くびねぢきつてすてん事ぢんもうよりもいとやすしねん
ぶつ申せといふまゝにとびかゝらんとしたりけり人々おさへらうぜきはさすましと両人取てひき
わけしゆく所/\にかへらるゝいとう九郎すけきよをあつはれかうなる侍とかんせぬものはなかりけり
二段目
其後くどうさへもんすけつねはいそぎ国に立かへりらうどう共を近付こんどかまくらにてかやう/\の次
第也いとう九郎すけきよ命の御めんかうふりて都へ上ると申せ共此国にかくれいてそれかしをねら
はん事もいさしれすしよせんこなたがよりおしよせてうつてすてんと思ふ也よういせよとそ申ける
かしこまつて候とやかてよういをしたりける是は扨をきすけきよはふしぎの命たすけられ一まつこ
きやうへたちかへり女はうはきよねんむなしく也あにのかわづがすへの子におんほうとてことし五つ
のおさなきものをちかづけおくれのかみをかきなてゝくわほうすくなの此わかやたいないにてちゝ
におくれ母のすてんとし給ふをおいはなをし子のことし其上あにのかたみと思ひやしなひそたてし
かいもなくようせし母はこそのあきむなしくなる今又われにすてられなば何となるへきふびんさよ
おことかちふさの母やあに共がさがみのそがに候へはかしこへやらんと思へ共まゝちゝすけのぶが思はん所も
さすが也ゑちごくかみのぢうしこそ我にしよゑんの人なれは是をたのみせいじんせはしゆつけになりてちゝかはつ
殿や我/\がこせをとうてゑさすべしあらむざんの此わかとなみだをながしの給へばおんほうは是をきゝ都へ
(三ウ)
上らせ給ひなは我をもつれさせ給はすして何とてすてんとの給ふそやあらうらむしの仰やといだきつ
いてそなきにけるすけきよは聞給ひおことをすつるにあらすともにうちつれのほりたくは思へ共かせんの
にわへはかなふましたゝとにかくにしゆつけになりおやおふぢのほだいとふてゑさすへしいかに/\との給へはおん
はうきいてそれかしおさなく候てかせんのにわへかなふましきとの給はゝそれこそやすき御事也ちいさき
太刀やかたなをこしらへて給はらばおちごと一しよに上らくしかたきのくびをきらんになんのしさいか候
べしぜひ/\のほらてかなはしとすがりついてそなきにけり有あふもの共是をきゝあつはれぶしの
子なりとてしたをまいてそかんじけるすけきよきいてしよせんたばかりゑちごのくがみへ
おくらばやと思ひおふようこそ申せおんほうさあらばともないのほるべしさりながらまつ/\なんしを
さきへのほせんとまついの源次をちかづけかやう/\といひふくめおんほうをいだかせゑちごのくがみへ
つかはしけるおんばうま事と心へよろこひいさみてくがみをさしてそいそきける心のうちこそあはれ
なれかゝる所にくどうすけつね二百き斗ておしよせ時のこゑをそあげにけりすけきよ聞てさ
だめてすけつねめにて有やらんねがふ所のさいわひ也とうちのこされしらうどう共同時をそあ
はせける時のこゑもしづまればすけつね一ぢんにかけ出しかまくらにてのあくごんわすれたるかすけきよ君
こそたすけ給ふ共此すけつねがたすくましぢんじやうにはらをきれいかに/\と申ける其時すけきよ
すゝみ出何すけつねと申かそれがしほどくはほうのものよもあらし君の御めんかうふつて都へ上り候
うれしけれ共けんざいの兄のかたきなるおのれをたすけおきて上る事是のみ心にかゝりしに
(四オ)
よせられたるこそうれしけれそこをひくなといふまゝにちやうだいへつつと入よろいとつて@@@かけ@
わびぼしむる其ひまにせう/\のこりし下人共一どにどつと切て出こゝをせんとそたゝかいける
され共みかたはふせい也かなふべしともみへざりけりすけきよ此よし見るよりもたとへかたきはなんきもあれ
思ふかたきはすけつね一人いかてかもつてあまさんとおもてもふらす切て出すけつねにわたりあひ
こゝをせんとそたゝかいけるすけつねかなわしとや思ひけんとつてかへしにげけるをいづくまてかにか
さんともみにもふでおつかくるくどうがらうどうたかせの平ぞうしうをうたせてかなわしと取
てかへす所をすいさんなるやつかなとおがみうちにちやうどうつゆんでのかたよりめてのこし
まで二つにきつておとしけり其まにすけつねにげのびたりすけきよ此由見るよりもぜひ
と思ひしすけつねはうちもらすおのれらうつてようなしと四方へばつとおつちらしすぐに都へ
はせのほりほつこくのかせんにかゞの国しのはらにてさねもりと一所にうちじにしてなをこうたいに
とゝめけりあつはれゆゝしきさふらいとてみなほめぬものこそなかりけれ
三段目
其後物のあはれをとゝめしは其ころそかのさとに候ひけるかわづが二人の子共一まんはこわうに
てしよじのあわれをとゝめたりゆへをいかにとたづぬるに有時よりともの御前に八か国の
しよさふらいをめされ君仰出されけるやうはそれ日本の内によりともにましたるくわほうの
ものはよもあらじそれをいかにと申にかた/\もそんしのことくはうげんにぞぶためよしをはしめ一もん
(四ウ)
くわはんほろび中一年有て平ぢにちゝよしともうたれ給ひし時それかし十三にてや平兵へむね
きよにいけとられすでにきられんとせし所にいけのぜんにのなさけによりいづの国にながされ
廿四年のはる秋をおくりいとうの入道につらくあたられ其時のわが心あはれいづ一国のぬしとなり
いとうに思ひしらせんとあけくれ八まんにきせい申せしりしようにて日本をしるのみならす
いとう山木を思ひのまゝにはからいあまつさへせいゐ将ぐんのせんじをかふむる事よりともにまし
たるくわほうのものは候ましかた/\いかにと仰ける御前しかうのしよさふらいげにもゆゝしき
御くわほうとみな一どうにかんじける其中にくどうすけつねすゝみ出て申やう仰のごとく
四かいおさまりらうゑんたゝざる所にまぢかき御ひざの下に今こそおさなく候へとも
すへのよにぎやくしんを存べきもの一両人候と申上る一ざの人々たが身の上やらんとたがいにめと
めを見合ける君御きしよくかはつてよりともいまだしらぬ也何ものなるそと仰けるすけつね
承りさん候いつそやきられまいらせしいとうがまご共二人候をまゝちゝそがの太郎すけのぶよういく
仕り候と申上る君聞召すけのぶはずいぶんちうのものなるがさやうのものを取たてゝより
ともがすへのあたとなさん事こそきつくわいなれそれ/\かぢはらめせとの御てう也かげすへ御
前にかしこまるいかに源太そがの太郎すけのぶこそいとうかまごをよういくするよし聞て有
なんじそかに下り二人共にぐしてまいれもしいぎにおよばゝそれにてかうべをはねよとの御てう
也かげすへ承りこは一大事の御つかいとは思へ共しうめいなればちからなくかしこまつて候と御まへを
(五オ)
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じんするにしたがいてちゝが事をわすれずしてなげきけるこそあはれなれ人のかたれはあにもし
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なたこなたへいとをしけりはこわう此よし見るよりも大事のかたきを弓にてはいかにとおほ
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べからすかべにみゝいわのものいふうきよそかしさやうのあくしを思ひ立もし其上にきかれなはた
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すけのぶのやかたになれはかくとあんないこい給ふすけのぶおとろきいそぎ立出たいめん有其時源太
(五ウ)
上いのおもむき一/\のべ給ひ兄弟の人々いそき出され候べしすけのぶ聞てとかくの返事もわき
まへすなみだにくれておはしますやゝ有ていかにかぢはら殿よの中になげきふかきものはすけのふ
也一とせおさなきものを二人もちて候しか五つと三つにてうしない其なげきはれざる
にかれらが母におくれ候つまのわかれ子のなげき一かたならすすけのふもとんせいせはやと思
ひしにいとうの入道来りかわづが子共二人有母共におき給へとさま/\いさめ申によつ
てきけばうしないし子共と同年なればひとへにわが子のよみがへりたるとそんしむかへ取
うきもつらきもかたりなぐさみ今は一まん十一才はこわう九つになり候わか身の年のよる
をもわきまへす兄弟がせいじんをまちつるにわかれんとてのおもひかやなふかぢはらどのと
の給ひてなくより外の事はなしかげすへ聞てげにどうりことはり也さりなから今はかなはぬ事
なればおそなはり給ふほと御ためあしく候といへばすけのぶきいてしばらく御まち給はるへし
かれらが母になごりおしませ申さんといゝけれはかげすへもあはれに思ひかたはらに立よりけり
扨すけのぶは子共や母に近付かやう/\の次第也といゝもはたさすさきだつものはなみだ也はゝは
ゆめ共わきまへすたをれふしてそなき給ふおつるなみたのひまよりもくとき事こそあはれ
なれおことら二人をもちてこそよろつのうさもなぐさみていつかせいじんしおとなしからんとあけくれ
に月日のことく思ひしにおことらきられあすよりは母は何とてながらへんわらはもろ共うちつれてとにも
いかにもなし給へなふすけのぶ殿との給ひてきへ入やうにそなき給ふそのふにうゑしくれないの@@@@
(六オ)
挿絵(六ウ)
挿絵(七オ)
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せ@事と思召さのみなげかせ給ふなよ御なげきを見奉れは我/\か心もきへよみぢのさはりと存
也といゝければはこわうは是をきゝあに子の仰候ことくもはやかなはぬ事なればさのみなげ
かせ給ふまし我/\がてを出して御てき仕りたる身にてもなし其上いまだおさなく候へば
御ゆるしもや候はん神ほとけにも申させ給へとおとなしやかに申にぞ母をはじめすけのぶ女
ほうたちにいたるまでこゑをあげてそなくばかりかちはらおそしと使をたつればちからおよ
ばず兄弟かゑもん見つくろいびんをなで今がかぎりかうらめしやれこはゆめかうつゝかといたきつい
@そなき給ふかげすへすけのぶを近付御なげきはことはり過て候共じこくうつり候ては君の御
@しよくあしく候へば御そせうの御ためもあしく候べしそれかしもずいぶん申上候へしはやとく/\といゝ
@@はすけのぶきいて手を合御前の事はひとへにたのみ候と内に入心よはくてかなはじと二人の子
共をひつたてゝおもてをさして出にけり母は人めもわきまへすもんくわいさしてはしり出やれ一まん
よはこわうよしばしとゝまれ兄弟やれ兄弟ともだへこがれ給ふにそ心つよきかぢはらもせんかたなく
そ見へにけりすけのぶめくれ心もきへはてゝ又立かへりしんしふうふ取ついてきへ入やうにそなきたまふ
なげきてかなはぬ事なればすけのぶなみだをとゝめかまくらにて人をたのみ命斗は申うけてかへ
るべしとさま/\けうくんし給へ共母はぜんごもわきまへすわらはもの共つれ給へはなちはやらしさりともと
いたきつきてそなき給ふすけのぶせんかたなく大のこはねをさしあげ弓やの家にうまるゝ身か
(七ウ)
さほどみれんをふるまひて人の見るめはいかゝせんそこのき給へといふまゝに取てひきのけ
兄弟をさきだてゝ源太とうちつれかまくらさしていそかるゝ母はゆめのこゝちしてちにふし
なから今一どこなたへ/\とまねき給へど其行方のあらざれは其まゝきへ入給ひしを女ほうたち
よきにかいしやく仕りつねの所に入給ふ母上の御なけき物のあはれは是なりとてみなかんせぬ
ものこそなかりけれ
四段目
其後かぢはら源太かけすへはすけのぶおや子をうちつれ夜に入てかまくらに付給ふかげ
すへすけのぶを近付今はよもふけ候へは明日ごん上申べしこよひは是におはしましなごりをおし
み給へとてわがしゆく所にとめをきよきにいたはり給ひけるいたはしやすけのぶは二人の子共を
さうにおきくどき事こそあはれなれいかになんじらかなはぬうきよをあんするは是みな人げんの
まよひ也おや子のちぎりもけふまでとあふ時よりもさだまれりさすがおことらなを
ゑたるいとうの家のちやく/\也さいごみれんにふるまひてくさのかげなるかはづ殿のなばしくだすな
兄弟よ何事もか事もぜんぜの事と思ひつゝいかにも心をけなけにもてといゝければ兄弟は是を
きゝなにしにみれんに候べきとし月の御なさけせう/\せゝにいたるまていかでかわすれまいらせん
たゝ今迄もいま迄もいつかせいぢん仕り一方の御たより共なり奉らんと思ひし事もいだつらにかゑつて思
ひをかけ候事是のみよみぢのさはりにて候とおとなしやかに申にそいとゝ心もきへはてゝ@@@@
(八オ)
外の事はなしすでに其よもあけゝればかけすへ立よりたゝ今御所へまいる也よきやうに申上命@@
めんかふむるべししばらく御まち候へと立出給へば兄弟をはしめすけのふはんじはたのみ候とてを合
給へは心つよきかげすへもそでにてなみだをおさへつゝ御所をさしてそ上らるゝ御前になれば
君御らんし何とてきのふはまいらぬそすけのぶいぎにおよひしかかけすへ承りいかでかおしみ候へき
ゆうべしたく迄あいぐし候へ共よふけ候間あくるをあいまち候也したがい候ては母やすけのふがなけき候
事なか/\ふびんのしやわせかけすけもらくるい仕り候と申上る君聞召さこそ母がおしみけん
おなしとがといひなからいまだおさなきもの共也なげきつるかとの給へはかけすへ此御ことばをちか
らにてかしこまつて申やうおゝそれおほく候へ共母が思ひあまりふびんに候へばせいじんのほどかけすへ
に御あつけ候へかしと申けり君聞召なんじか申所ことはりと思へ共よりともいとうにつらくあた
られし事さだめてきゝもおよぶらん三才のわかをうしなはれあまつさへ女ほうを取かへされなけ
きの上にちじよくをかき其上よりともをうたんとせしうらみいかばかりとか思ふらんかのものゝ
しそんといわばたとへこつじきひにんなり共いけてみんとは思わぬ也いわんや是はげんざいの
まごいそきゆいのはまに引出しかうべをはねわかゞきやうよふにほうすべしとそ仰ける
かけすへとかく申さんやうもなくかしこまつて候と御前を罷立しゆく所にかへりすけのぶに
近付兄弟の御命さりともと存候へ共こいとう殿ふちうはじめおはり仰出されわか君の
くさのかけにて思めされん所も有いそきちうし申せとの上い也との給へばおや子三人たのみし
(八ウ)
ちからもきれはてゝ一どにわつとばかりにて源太もろ共しばしなみだにくれ給ふがゝる所
にほりのや太郎太刀取承りなどおそなはり給ふそはや@く/\@申けるすけのぶ聞て
ちからおよばすけに/\思ひにみだれぜんごをうしない候事御@@@@はつかしけれさあ@はいそ
ぎ申さんと兄弟うちつれゆいのはまへそいそかるゝとしよのひつぢのあゆみとは今こそおも
ひしられたれみぎわになればしきがはしきにしむきになをしけりけさまではさりとも人々
申たすけんとたのみし心もつきはてゝすけのぶめくれ心きへいかに兄弟母が方に思ひおく事ある
ならば我にかたれといゝければ一まんきいてたゝ何事もか事もよき@うに御心へ候べしたゝしさい
こは御おしへのことく思ひきりてみれんにもなかりしと御かたり候へとそ申けるはこわう聞
てそれかしもおなし心に候さりながら今一ど母上をと申もはてすなきければ一まんが是を
見てふかく也はこわう母上の仰られ候事はやくもわすれ給ふかやかまいて母やめのとか事をおも
ひ出す事なかれさやうなればみれんの心いでくるぞたゝ一すじに思ひきれとおしへ給ふはこゝそ
かし人の見るにといゝければはこわう聞てな@しにみれんに候べきとかほおしぬぐいあざわらひ
なみだを人に見せされはけいごのもの共そでをぬらさぬものはなしすけのぶかれらがけなけなる
ふぜいを見て今は心やすしいよ/\ちからをつけんと思ひいかになんじら弓やの家にうまるゝものは
命よりなをこそおしめさればれうもんげん上のつちにほねはうづめ共なをはくもいにのこせと
いふことばかねてもきゝぬらんさいご見ぐるしくはみへね共いよ/\心をたしかにもちねんぶつ@@と
(九オ)
挿絵(九ウ)
挿絵(十オ)
いゝければ兄弟心へ候とにしにむかいてを合なむあみだぶつといゝければほりのや太郎太刀ふ
りあげすでにうたんとしたりしがあまりのふびんに思ひまづあにをやきらんおとゝをやきらんと
心まよひてうちかねたりすけのぶたへかねいそぎ取つきさのみに物なおもはせそおなしくはそ
れかしかてにかけよみぢをやすくせさせんとたちをおつ取うしろにまはりいかに兄弟ねんぶつ
申せ共いゝければちゝにきられんうれしさに一まんさきにきられんはこわうさきにしなんとた
がひにあらそひすゝみしを見ればきもきへ心たへ思ひきりたるすけのぶも太刀をかしこ
にからりとすてたをれふしてそなきいたりかゝる所へかぢはら平ざうかけ時はせ来り
いかにすけのぶかなはぬまでも申てみんそこつにきるなや太郎といゝければすけのぶもや太郎も
大きによろこひばんじはたのみ候とかたはらに立よりてかけ時のきつさうをいまや/\と
またれける此人々の心の内あはれ共中/\何にたとへんかたもなし
五段目
其後かぢはら平三かけ時はいそき御所に上らるゝよりとも御らんしかちはらこそれい
ならすそせうがほとおほへたれかけ時承りさん候すけのふがやうし共たゝ今はまにて
ちうせられ候あはれそれがしに御あづけ候へりしとそ申ける君聞召けさより源太が申
つれ共あずけすふしの間いかにへたて有べきなんじうらむべからすと仰けりかけ時申あけんやう
なくすこ/\と罷立わだのさへもん入かはりつつしんで申さるゝかけ時おや子が申上御めんな
(十ウ)
らぬ所をよしもりかさねて申上事おそれおほく候へ共人をたすくるならいさのみこそ候へはゞ
かりおほく候へ共よしもり君の御大事に立事たび/\也と申せ共取わけきぬかさの城にて大介
をはじめ一もんのもの共御命にかはり候ちうせつにそれかしに御あつけ候はゞせうぜんの御おんにて候と
たつてそせう申さるゝ君聞召御ぶんが申所もたしかたしといへ共此ものにおいてはいかでかたすけ
おかるへきよしもりかさねてつみかろくしてちうせらるゝともがらをあづかり申は御おんとさらに思はれ
すぢうざいのものを給はつてこそおきてをそむく御おんなれとおしかへし申さるゝ君もなんぎに
思召しはらく御しあんなされ御ぶんのしよもふ何をかそむき申べきさりながら此ぎにおいてはより
ともにまかせ給はるべしいとうがなさけなかりし事こん上にてはわすられすたゝ今ほうし候との給へはよし
もりちからおよはすたゝれけり其つぎにうつのみや御前に罷出いまだ申上ざる所に君御らんしけふ
のそせう人かなふましとの給ひて御きしよくかはつてみへけれはともつな申出すに及ばすたいしゆつ
すちはの介つねたねやかてざしきに入かはり人々申上かなはぬ所を又もや申上る事いかゞとは存候へ共れうの
ひげをなでとらのおゝふむ事もことにより候へはけふのそせう御きゝ入候はゞかしこまり存へき
よしかた/\申候とつつしんで申さるゝ君聞召御ぶんの事身にかへてもあまり有それをいか
にと申に我石ばしのかせんにまけ七きに成てすぎ山を立出あわの国を心さしうきなみにたゞ
よひ今やじかいと思ひし時三千よきにてかうりよくせられ今よを取事ひとへに御ふんのおん
なれはわするべきにあらね共いづのいとうがうらめしさはかねてもきゝ及給ふらんとばかりにて
(十一オ)
挿絵(十一ウ)
挿絵(十二オ)
その@@御ことばもなければつねたねかさねて申さるゝおそれおほく候へ共今日のそせう人それ
がしにかきらすたれか御大事にたゝざるものゝ候へき其御心ざしに御めんなされ候べしかれらがおゝぢふ
ちうのものにて候ゆへ君の御じひにておたすけあれと申けり君聞召な@くにしづむざい人をはじひ
のほとけもすくひ給はすとこそきけちばかさねてぢぞうさつたのせいぐはんにむふつせかいの
しゆじやうをすくはんとこそちかい給ふと承る君かさねてぢそうはいまた正がくなしかやうの
あく人をすくひつくして正がく有べしとこそきけちばきいてそれはじひにてましまさすやきみ
かさねてそれはほとけのみのりなればによらいにあひてとい給へかれらはせ上のせいとう也此ぎにお
いてはなか/\思ひもよらぬ次第そと御きしよくあしくみへければちから及ばすたゝれけりこゝにはた
け山のしけたゞすぢかいばしに有けるが此事を聞給ひいそき御前に出給ふ君御らんしめつらしや
しけたゞ是へ/\と仰けるしげたゞかしこまつていとうがまご共いまだおさなく候へはせいじんのほ
どしけたゞに御あづけ候へかしと申さるゝ君聞召けさより人々申せ共御ぶんもかねてしることく
いとうがふるまひことばにものべられす其上たすけおきてはよりともがすへのかたきこれ
なればちうしてもなをあきたらすとの御でう也しけたゞかさねて御てうを返し候事おそれ
おほく候へ共かれらせいじん仕り君にふちうをそんぜは人てにはかけ申まししけたゝかてにかけ候べし其上
一ご一どの大事をこそ申上んと存つねにそせうを申上す是一つをは御めん有て給る
べしと申さるゝ君聞召かれらかせんぞのふちうをはみな/\そんしの事なるにかほとにの給ふ
(十三ウ)
事いさゝかもつてかへす此事かなげぬかはりにはむさしの国廿四ぐんをまいらすべししけたゝ承り
国を給はりかれらをきらせ給ひてはしけたゞかせんそまつ代此ちじよくいかでかすゝき申へきそれかしか
もと給はつたるしよりやうをのこらすさしあけ申べしかれらを御たすけ有て給はるべし君聞めし
いやそれまても候はすけさより人々申つるをもせういんせす此事においてはよりともにゆるし給へと
仰けるしけたゝかくてはかなはじとこはくちおしき御てうかな人々申されかなはめあとにしけたゞ
がしようのそせう申かゝりかなはでかへるものならはちゝぶの家のなをりなら/\いきたるかいも
候はす正しく君はせいゐ将ぐんにてりひをたゞし給ふ身がかほどのそせかなへさせ給はぬ事さ
ら/\もつていわれなしせんぢやうに弓をひき矢をはなちたるものだにもゆづるをはつしかうさんす
るはならい也おゝぢいとうは過し事とがなきかれらをかほどまて御ざいくわ何事そやそれがしかゝる
そせう申さんと思ひ立候事ちゝぶめうけん大ぼさつにもはなされ此時ちゝふが一もんうんのき
はめと存る也しよせん君にむかい奉りもんだうするはおそれ也かれらをきらせ給ひなはしけたゞも
御まへにてはらきつていとけなきもの共がさうのてを取しでさんづを引わたしあび大せうに罷
有いとうかはづに引わたしふるほうばいのしるしにいたし申すべしものそのかづにはあらね共しけたゞうせぬ
とひらうせはじがいとは申まし一もんあつまりなげき申さん其時は今日のそせう人いかでかのがれ給ふべ
きさあらんにおいては君のゆゝしき御大事とことばをはなつて申さるゝ君聞召其時にいた
つてはよりともさはぐへきにあらすたゞ天うんに身をまかせんとの給ひてもつての外の
(十三オ)
御きしよく也もとよりしけたゞ思ひきりたる事なれはいたけだかにのひあがりうし@へきつ
とふりかへり今日のそせう人みな/\それにて聞給へかた/\君の御ために命をすてんとし給ふ
事其かすかぎり候ましかほどのそせうかなへすして命なからへ給はんやしけたゞさきたち申也おつ
付給へ人々と太刀のつかにてをかくれはよりともあはてゝそれ/\との給へは一ざの人々おしとゝむ
其時ともあらふせうのしげたゝのそせうかな其ぎにて有ならは二人のもの共しげ
たゞにあづくる也さりながらけさよりそせうの人々に心へ給へとの給ひて御ざをたゝせ給へはしけ
たゞ有かたし/\といそきゆいがはまへつかい立しゆく所をさしてかへらるゝかのしけたゝのふるまひほめ
ぬものこそなかりけれ是はさておきかけすへは人々そせう有つれ共かなはぬよしを聞よりもち
からおよはす今はいつをかごすべきと又兄弟を引出すすけのぶもせんかたなくもとのはまぢに
出にけりかゝる所にしけたゝのらうとうはんざはいそきはまぢにかけつけ兄弟の命をはしけたゝ申
給はりたり源太殿もそが殿もかへらせ給へといゝけれはすけのぶもかけすへもこれは/\とはかり也
すけのぶははんざわにむかいひとへにしけたゞはしやくそんの御たすけと存候へは中/\ことはにおよ
ばれすたゞ今まいり申たくは候へ共かれらが母にいそき申きかせやがて参り申べしよきに申て給
はれとなりきよにいとまをこい兄弟をうちつれいそきそがへかへらるゝ母はゆめの心ちして
いそき立出これは/\とばかりにてよろこびなみだせきあへすとにもかくにも兄弟の其命
あやうかりつるものかなとてみなかんせぬものこそなかりけれ
(十三ウ)
六段目
さるほどにくはういんしばしもとゞまらずつなかぬ月日うつりきてことしは一まん十三にそなりに
けりくぼうをはゝかる身にあればひそかにげんふくしてまゝちゝのみやうじを取そがの十郎すけなり
とそなのりける母上おとゝのはこわうを近付おことははこねへのほりがくもんしてゆく/\はほうし
になりちゝのぼだいやわらわをたすくべしゆめ/\おとこうらやむましよをのがるゝ身なればれう
いきんしう何ならす十ぜんていわうだにもよをすてほだいのみちに入給ふうきもつらきも
よの中はゆめそと思ひさだむべしつたへきくもくれんは母のおしへをわすれすして五百大あらかん
にはこへ給ふいかに/\との給へばはこわう心に思ふやうおやのかたきをうたずしてほうしになる事有まし
とは思へ共母の仰のそむかれすともかくも御はからいとそ申ける母はなのめに思召らうとう
せう/\さしそへてはこねをさしてそのほさるゝはこねになれはべつとうにたいめんしかやう/\と
申けりべつとうなのめならす思召さあらはかくもん候へとてよきにいたはり給ひけるかくて月
日をふるほとに十二月げじゆんのころにその寺のちごたちのもとへめん/\のさとよりさいまつの
いんしん有下れとかきたるふみも有ぐわんざんのしやうそくにししやうへのおくり物そへたるふみ
もありちゝのふみ母のふみ@ぢおばのふみとて二つ三つ五つ六つよむちごも有其中にむ
ざんやなはこわうは母のふみばかり也あらうらやましの人々や我はいかなるいんぐわにて母上の御ふみ
ばかりにてちゝのふみとて見ざる事のかなしさよ二のみやのあね御ぜん十郎殿さへとい給はす
(十四オ)
あらたよりなのわか身かなちゝ上うきよにましまさはたれにかおとるべきあゝこひしのちゝ上
とて母の御ふみかほにあてたをれしてそなきいたりいまたおさなきちごたちもあは
れとや思ひけんともになみだをながしけりはこわう心に思ふやう何はにつけてもちゝのかたきすけ
つねとやらんをうたではいかでおかるべきしよせんごんげんゑきせいをかけ申さんとそれよりも御
まへさしてそ参りける御前になればわに口にてうどうちならしなむきみやうてうらいねがはく
はちゝのかたきすけつねを思ひのまゝにうたせてたび給へとかんたんくだきいのらるゝかゝる所にかまくら
殿はこね御さんけい有へきとてねぎかんぬし立さはぎしんぜんをきよめけりはこわうはつと思ひ
ねかふ所のさいはいなりさだめてかたきすけつねも御供して参べしびんぎよくは一かたなうらむ
へきされ共すけつねとやらんをなのみきゝて見しらねは此たびみんこそうれしやとほうし一人
かたらいこかけにしのびいまや/\とまちにけりあんのごとくよりともは四方ごしにめされ八か国の
しよさふらい花をおりたるしやうそくにてぐぶのぎやうれつつくろいてさうのたてわき二行
にならひ其外すいじんさつしきまて金銀をちりばめすでにしやさんと聞へけるおまへに
なればよりともはわに口てうどうちならし天長ぢきうこくどあんせんの御いのりしはらくねんし
給ひないしんに御ちやくざあれば御供のしよさふらひほうでんにひざをつらねてさし給ふさるほと
にはこわうはこかげに立よりけんふつして有けるかいつれかすけつねにて有らんときかまほしくおもひ
とものそうに一/\次第にたつねける此そうこたへて申やう君のひだりの一のさははたけ山のしげ
(十四ウ)
たゞ右の一ざはわだのよしもり中のざはかちはら平三かけ時さてかうのひたゝれきたるこそ御身
の一もんくどうさへもんすけつね也とおしへけるはこわうはつと思ひいかにもして一かたなさしちがへ
いかにもならんと思ひまもりかたなくはいちうに取かくしゑんのかゝりに立そいてうかゝひよる
こそおそろしけれすけつねはやく見つけつゝあつはれあれなるわらんべのまなこさしこそおそろし
けれげに/\いとうがまこ此山に有ときくたつねはやと思ひとうしゆくを近付御山にかはつが
子有ときくいつれのほうに候そどうじゆくすなはち此少人にて候とはこわうがてを取
出にけりすけつねさればこそと思ひさらぬていにて御身はかはづ殿のしそくかや一まん殿はち
とこに成てやましますらんそが殿はいとおしくあたり申かしらざるものゝなれ/\しく申と思ひ給ふ
な我こそ御身のちゝとはいとこ也御へんたちにもしたしきは我はかりたまにあふたるしるしとてくはい
ちうよりあかぎのつかにとうかねうつたるわきざし取出しはこわうにとらせけりはこわううけ取とうにつら
さのますふせいかくたばかる口おしやと思へはぜんごわきまへすわきざしひんぬきとひかゝるをどうしゆく
あはてゝいたきつくすけつねさつしつたりとたちにてをかけれは人々取付せんかたなく立のきけりかのはこ
わうかふるまひ見る人きく人おしなへしといふとりはちいさけれ共とらを取あらおそろしの心や
とみなしたをまいてそかんじける
(十五オ)


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