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きりかね

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校正

翻刻にあたり、欠損部(@)は横山重校訂『古浄瑠璃正本集 第二』(角川書店、1964)所収の前島春三氏蔵本(以下【古】)により補った。
(十六ウ・1行目)【底】一もん@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@—【古】一もんくどうさへもんすけつね也とおしへけるはこわう
(十六ウ・2行目)【底】まもりかたな@@@@@@@@@@@@@—【古】まもりかたなくはいちうに取かくしゑん
(十六ウ・8行目)【底】あかきのつか@@@@@—【古】あかぎのつかにとうかね

翻刻

四日め
きりかね
初段
さても其後つら/\せけんをくわんずるに人としてとをきおもんばかりなきものはかならずちかき
うれへ有爰にせいわげんしのかういんしもつけの守よしともの三なん兵衛のすけみなもとのよりと
もはさんぬるゑいりやくぐわん年にいづの国にながされいとうがたちにまします所にすけちかゞ心がはり
によつてひそかに伊藤を出給ひほうでうひるが小嶋にうつり。もんがく上人のはからいにてせんとうの
いんぜん給はりぢゑい四年八月十七日山木のはんくわんかね高をようちにし石ばし山のかつせんにうち
まけ給ふといへ共まなづるいわがさきより御舟にめされあはかづさにつかせ給へはちばかづさ一まん三千よ
きにて御身かたにまいりそれよりむさしの国に打出給へははたけ山を初め諸国のくんぜい我も/\
とはせあつまり御せい廿万ぎに成給へは今ははやとう国にてにたつ敵もあらざれはかまくらに御ざ
をすへ此比げんしをそむきしぎやくたう大ばいとうを初めとしていち/\にからめ取かうべをはね給へ
ばまたのをはしめつみふかき輩はみな平けへにげのぼり又源氏にふちうなきものはそれ/\にほん
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すといへとも君にふちうなき事は上にしろしめされたりあはれ御めんをかうむらばけふかう忠をつくし申さんと
たつてそせう申けり時正聞給ひ是にまたせ給へとて君の御前にまいりかやう/\と言上有君聞
召そのものこなたへめせかしこまつて候とやがて両人めし出すらいてう御らんしめづらしや両人我ふしぎの
(一オ)
挿絵(一ウ)
挿絵(二オ)
うろにしのびし時御ぶんらがなさけにて命たすかりかやうにうんをひらく事なんしらがかうをん也よりとも
いかでわするべきいよ/\ちうをつくすへしとあんどの御はん下さるゝ有がたしと三度いたゞき御前を立にけり
一ざの人々なさけは人のためならすいしくもしたる両人とてかんせぬものはなかりけりかゝる所に介ちか二なんい
とう九郎すけ清を高てこてにいましめ君の御前に引出すよりとも御らんし其すけきよにはし
さい有なわをゆるしてちかうめせ畏て候とやかてなわをとき御前ちかふめし出す君御らんしいかに介きよひ
とゝせ父の入道我をうたんとはかりし時汝がかへりちうにてわれいとうをおちてか様にうんをひらきしもひとへ
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御めんをかうふつて君につかへ申事ほうばいの思わん所中/\いきたるかいもなしかつうは平けの御おんをふかくかう
むりし身なれは今更げんしへつかへん共存ぜす御なさけにはいそきくびをめされ候べしとたつてごん上申ける
よりとも聞召あつはれいさぎよき侍かな然といへ共おんをゑておんをしらぬは只ぼくせきにこと
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さねて申様只今御たすけ候はゝたちまち平けへ参り君の御かたきと罷成申へしとはゞかりなくそ申ける
君聞召たとへかたきと成とてもよりともがてにかけいかでちうばつせらるへき此上は都へ上り平家へ
ほうこう申さん共御ぶんが心にまかすべしとの御でうにて御ざをたゝせ給へは一ざの人々是を聞あつはれ有
がたき御てうかな扨もかう成すけきよや。君も君。すけきよも介きよとしばしかんじていたりけり
其中にくどうさへもん介つねぶきやうげなるきしよくにて敵のたねをは腹をさいてもたやせ
(二ウ)
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つぶやきける介きよ御前を立けるが此由を聞よりも取てかへしやあおのれ介つねきつねがとらの
いをぬすみよのけだものをおどすかごとくおのれ君のいせひをかつて左様の事を申かそればんとうに
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とさま/\ちんしこうをこい命たすかる其中にしよりやうを給はりめしつかはれんと有をだに二てうの弓
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なかとさまよい身のおき所なかりし身がたま/\所領にもとづきていわれぬ事を申つゝ命をすつるな介つ
ねとはたとにらんで申けりすけ経大きに腹を立なんしが父のすけちかこそわがしよりやうをかすめた
いりやうしあまつさへ君にふちう申ゆへ天ばつのがるゝ所なく首をきられ申也いわれぬ事申さんよりいのちたす
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両人取て引わけ宿所/\にかへらるゝ伊藤九郎すけきよをあつはれかう成さふらいとかんせぬものは
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二たんめ
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(三オ)
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のかたみと思ひやしないそだてしかいもなくようせし母はこその秋むなしくなる今又我にすてられなば何
と成べきふひんさよおことがちぶさの母やあに共かさがみのそがに候へはかしこへやらんと思へ共まゝちゝ。すけ
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(四ウ)
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三たんめ
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出されける様はそれ日本の内によりともにましたるくわほうのものはよもあらじそれをいかにと申にかた/゛\
(五オ)
挿絵(五ウ)
挿絵(六オ)
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(六ウ)
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(七オ)
挿絵(七ウ)
挿絵(八オ)
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ものゝあわれは是なりとてみなかんぜぬものこそなかりけれ
四たんめ
其後かぢはら源太かげすへはすけのぶおや子を打つれよに入てかまくらに付給ふかげすへすけのぶ
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(九オ)
挿絵(九ウ)
挿絵(十オ)
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くどき事こそあはれなれいかになんしらかなはぬうき世をあんずるは是みな人げんのまよひ也おや子の
ちぎりもけふまでとあふ時よりもさだまれりさすがおことら名をゑたるいとうがいゑのちやく/\也
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の事と思ひつゝいかにも心をけなげにもてといゝければ兄弟は是を聞なにしにみれんに候べし年月
の御なさけせう/゛\せゝにいたる迄いかでかわすれまいらせん只今までもいま迄もいつかせいじん仕り一
方の御たより共なり奉らんと思ひし事もいたつらにかへつて思ひをかけ候事是のみよみぢのさはりにて
候とおとなしやかに申にぞいとゞ心もきへはてゝなくより外の事はなしすでにそのよも明けれはかげすへ立
よりたゝ今御所へまいる也よきやうに申上命の御めんかうふるへししばらく御待候へと立出て給へは兄弟を
初めすけのぶ万事はたのみ候と手を合せ給へは心つよきかげすへも袖にてなみたをおさへつゝ御所を
さしてぞ上らるゝ御前になれは君御らんし何とてきのふはまいらぬぞすけのふいぎにおよびしかかげすゑ
承りいかてかおしみ候べきゆふべしたくまであいぐし候へ共夜ふけ候間あくるをあいまち候也したがい候ては母
やすけのふかなげき候事中/\ふびんのしあはせかげすへもらくるい仕り候と申上る君聞召さこそはゝ
がおしみけんおなしとがといひなからいまたおさなきもの共也なげきつるかとの給へはかげすへ此御ことば
をちからにて畏て申様おゝそれおほく候へ共母が思ひあまりふびんに候へはせいじんの程かげすへに御あづ
け候へかしと申けり君聞召なんしが申所ことはりと思へ共よりともいとうにつらくあたられし事定て聞も及
ぶらん三才の若をうしなはれあまつさへ女ほうを取かへされなげきの上にちじよくをかきそのうへより
(十ウ)
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けて見んとは思わぬ也いわんや是はげんざいのまごいそきゆいのはまに引出しかうべをはねわかゞきやう
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じに思ひきれとおしへ給ふはこゝぞかし人の見るにと言けれははこわう聞てなにしにみれんに候べきとかほをしぬぐいあ
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挿絵(十一ウ)
挿絵(十二オ)
ばれうもんけん上のつちにほねはうづめともなをはくらいにのこせといふ言はかねてもきゝぬらんさいこ
みくるしくはみへね共いよ/\心をたしかにもちねんぶつ申せといゝければ兄弟心へ候とにしに向ひてをあは
せなむあみたぶつといひけれはほりのや太郎太刀ふりあけすてにうたんとしたりしがあまりふびんにお
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らに立よりてかけ時の吉さうをいまや/\とまたれける此人々の心の内あはれ共中/\なにゝたとへん
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五たんめ
▲其後かぢはら平三かげ時はいそぎ御所に上らるゝよりとも御らんしかぢはらこそれいならずそせうがほと
おぼへたりかけとき承りさん候すけのぶかやうし共たゝ今はまにてちうせられ候あはれそれかしに御あづけ候へ
かしとぞ申ける君聞召けさより源太が申つれともあづけず父子の間いかにへたて有へきなんぢ
うらむべからずと仰けりかげ時申あけんやうなくすご/\と罷立わだのさへもん入かはりつつしんで申さるゝ
かげ時おや子が申上御めんなき所をよしもり重て申上る事おそれおほく候へども人をたすくるならいさ
のみこそ候へはゞかりおほく候へ共よしもり君の御大事にたつ事たび/\也と申せ共取わけきぬかさの城
(十二ウ)
にて大すけを初め一もんのもの共御いのちにかはり候ちうせつにそれかしに御あつけ候はゝせうせんの御をん
にて候とたつてそせう申さるゝ君聞召御ぶんか申所もたしかたしといへとも此ものにおいてはいかでかたすけおか
るべき吉もりかさねてつみかろくしてちうせらるゝともがらをあづかり申は御おんとさらに思はれすぢうざいの
ものを給はつてこそおきてをそむく御おんなれとおしかへし申さるゝ君もなんぎに思召しばらく御しあんなされ
御ぶんのしよもふ何をかそむき申べき去ながら此ぎにおいてはよりともにまかせ給はるべしいとうがなさけの
なかりし事今生にてはわすられずたゝ今ほうじ候との給へはよしもり力およはずたゝれけりそのつぎにうつの
みや御前に罷出いまだ申上ざる所に君御らんしけふのそせう人かなふましとの給ひて御きしよくかわつてみへけ
れはともつな申出すに及はずたいしゆつすちばの介つねたねやがてざしきに入かはり人々申あげかなはぬ所
を又もや申上る事いかゞと存し候へ共りやうのひけをなでとらのおゝふむ事もことにより候へはけふのそせう御
聞入給はゝかしこまり存ずへきよし方/\申候とつつしんで申さるゝ君聞召御ぶんの事身にかへても。
あまり有それをいかにと申にわれ石ばし山のかせんにまけ七きになりてすぎ山を立出あわの国を心
ざしうきなみにただよい今やじがい思ひし時三千よきにてかうりよくせられ今世を取事ひとへに御ぶん
のおんなればわするべきにあらざればいづのいとうがうらめしさは兼ても聞および給ふらんとばかりにて其
後御ことばもなけれはつねたねかさねて申さるゝおそれおほく候へども今日のそせう人それかしにかぎら
ずたれか御大事にたゝさるものゝ候べきその御心ざしに御めんなされ候べしかれらがおうぢふちうの者にて候ゆへ君
の御ぢひにておたすけあれと申けり君聞召ならくにしづむざい人をはじひのほとけもすくひ給はず
とこそきけちば重てぢぞうさつたのせいぐはんにむぶつせかいのしゆじやうをすくはんとこそちかい給ふ
(十三オ)
と承る君かさねてぢぞうはいまた正がくなしかやうのあく人をすくいつくして正がくあるへしとこそきけ
ちばきいてそれはじひにてましまさずや君かさねてそれはほとけのみのりなれはによらいにあひて
とい給へかれらはせ上のせいたう也このぎにおいては中/\おもひもよらぬ次第ぞと御きしよくあしく
みへけれは力およはずたゝれけり爰にはたけ山のしげたゞすぢかいばしに有けるが此事を聞給ひいそ
ぎ御前に出給ふ君御らんしめづらしやしげたゞ是へ/\と仰けるしげたゞかしこまつていとうがまご共いまだ
おさなく候へばせいじんの程しげたゝに御あづけ候へかしと申さるゝきみ聞召けさより人々申せども御ぶんもか
ねてしるごとくいとうがふるまひことばにものべられずその上たすけおきてはよりともがすゑの敵これ
なればちうしてもなをあきたらずとの御でう也重たゞかさねて御てうをかへし候事おそれおほく候へ共かれ
らせいしん仕り君にふちうをぞんせば人てにはかけ申まじしげたゝかてにかけ候へしその上一後に一度の大事。
を申上んと存しつねにそせうを申上ず是一つをば御めん有て給はるべしと申さるゝきみ聞めしわれら
がせんぞのふちうをはみな/\ぞんしの事成にかほどにの給ふ事いさゝかもつてかへす此事かなへぬかはりにはむ
さしの国廿四くんをまいらすべししげたゞ承り国給はりかれらをきらせ給ひてはしげたゝかせんぞまつ代このち
しよくいかでかすゝぎ申べきそれかしがもと給はつたるしよりやうを残らずさし上申べしかれらを御たすけ有
て給はるへし君聞召いやそれまでも候はずけさより人々申つるをもせういんせず此事においてはよりともにゆ
るし給へと仰けるしげたゞかくてはかなはしとこはくちをしき御でうかな人々申されかなはぬ後にしげたゝが一生の
そせう申かゝりかなはてかへるものならばちゝぶの家のなをりならんいきたるかい候はず正しく君はせいゐ
将ぐんにてりひをたゞし給ふ身がかほどのそせうかなへさせ給はぬ事さら/\もつていわれなしせんぢやうに弓
(十三ウ)
をひき矢をはなちたるものだにもゆづるをはつしかうさんするはならひ也おうぢいとうは過し事とがな
きかれらをか程まで御ざいくわ何事ぞやそれかしかゝるそせう申さんと思ひ立候事ちゝぶめうけん大ほ
さつにもはなされ此時ちゝぶか一もんうんのきわめと存る也しよせん君に向ひ奉りもんどうするはおそれ
なり。かれらをきらせ給ひなばしげたゝも御まへにて腹きつていとけなきものともが左右のてを取しで
さんつを引わたしあび大ぜうに罷有いとうかわづに引わたしふるほうばいのしるしにいたし申べしものそのかずには
あらね共しげたゝうせぬとひらうせはじがいとは申はまし一もんあつまりなげき申さんその時は今日の
そせう人いかでのがれ給ふべきさあらんにおいては君のゆゝしき御大事と云をはなつて申さるゝ君聞召そ
の時にいたつてはよりともさはくべきにあらずたゝ天うんに身をまかせんとの給ひてもつての外の御き
しよく也本より重忠思ひ切たる事なれはいたけ高にのび上りうしろへきつとふりかへり今日のそせう人
みな/\それにて聞給へかた/\君の御ために命をすてんとし給へるそのかずかぎり候ましかほどのそせうかなへす
して命なからへ給はんや重たゞさきたち申也おつ付給へ人々と太刀のつかにてをかくれはよりともあはてゝそ
れ/\との給へは一さの人々おしとゞむその時よりともあらふせうの重たゝのそせうかなそのぎにて有
ならば二人のもの共重たゞにあつくる也去ながらけさよりそせうの人々に心へ給へとの給ひて御ざをたゝせた
まへは重たゝ有がたし/\といそきゆいがはまへつかい立宿所をさしてかへらるゝかの重たゞのふるまいほ
めぬものこそなかりけれ是はさて置かげすへは人々そせう有つれ共かなはぬよしを聞よりも力およはずい
まはいつをか言すべきと又兄弟を引出す介のぶもせんかたなくもとのはまぢに出にけりかかる所にしげ
たゞの衆等はんざはいそきはまぢにかけつけ兄弟のいのちをは重たゞ申。給はりたり源太郎もそか
(十四オ)
挿絵(十四ウ)
挿絵(十五オ)
どのもかへらせ給へと云けれはすけのぶもかげすへも是は/\と計也すけのふははんざわに向ひひとへに
しげたゝはしやくそんの御たすけとそんし候へば中/\ことばに。およばれずたゞ今まいり申たくは候へ共かれらが
母に急申。きかせやがてまいり申へしよきに申て給はれと成きよにいとまをこい兄弟をうちつれ
いそきそがへかゑらるゝ母はゆめの心ちしていそきたち出是は/\とはかりにてよろこびなみたせきあへす
とにもかくにも兄弟のそのいのちあやうかりつるものかなとてかんぜぬものこそなかりけれ
六たんめ
去程にくはういんしばしもとゝまらずつながぬ月日うつりきて此年は一まん十三にぞなりにけり。く
ぼうをはゝかる身にあれはひそかにげんぶくしてまゝ父のみやうじを取そがの十郎すけなりとそな
のりける母上おとゝのはこわうをちかづけおことははこねへのほりがくもんしてゆく/\はほうしになり父のぼ
だいやわらはをたすくへしゆめ/\おことうらやむましよをのがるゝ身なれはれうちきんしうなにならず
十ぜんてい王だにもよをすてぼだいの道に入給ふうきもつらきもよの中は夢ぞと思ひ定むへしつ
たへきくもくれんは母のをしゑをわすれずして五百大あらかんにはこへ給ふいかに/\との給へははこわう心に思ふ様
おやのかたきをうたすしてほうしに成事有るましとは思へ共母の仰のそむかれずともかくも御はからいぞと申け
る母はなのめに思召らうとうせう/\さしそへてはこねをさしてぞのぼさるゝはこねになれはへつたうにたい
めんしかやう/\と申けりばつとうなのめならず思召さあらばかくもん給へとてよきにいたはり給ひけるかくて月
日をふるほどに十二月下じゆんの比にその寺のちごたちの元へめん/\のさとよりさいまつのいんしん有下
れとかきたるふみも有ぐわんざんのしやうぞくにしせうへのおくり物そへたる文も有父のふみ母のふみ
(十五ウ)
おちおばのふみとて二つ三つ五つ六つよむちごも有其中にむさんやなはこわうは母の文へ計也あらう
ら山しの人々やわれはいか成いんぐわにて母上の御ふみばかりにて父の文とてみざる事のかなしさよ二のみやの姉
御ぜん十郎殿とてとい給はずあらたよりなの我が身かな父うへうきよにましまさはたれにかはおとるべ
きあゝ恋しのちゝ上とて母の御ふみかほにあてたをれふしてぞなきいたりいまだおさなきちごたちも
あはれとや思ひけんともになみたをなかしけりはこわう心に思ふやう何はに付てもちゝのかたき介つね
とやらんをうたではいかでおかるべきしよせんごんげんゑきせいをかけ申さんとそれよりも御前さしてそまい
りける御前になればわにくちていど打ならしなむきみやうてうらいねがはくは父のかたきすけつねを
思ひのまゝにうたせてたび給へとかんたんくだきいのらるゝかゝる所にかまくらなんはこね御さんけい有へきとて
ねきかんぬし立さはぎしんぜんをきよめけりはこわうはつと思ひねがふ所のさいわい也定てかたき介つね
も御供してまいるべしひんぎよくは一かたなうらむべしされ共介経とやらんをなのみ聞てみしらねば此度
見んこそうれしやとほうし一人かたらいこかげにしのび今や/\と待にけりあんのごとくよりともは四方ごしにめされ
八か国の諸侍はなをおりたるしやうぞくにてくぶのぎやうれつつくろいて左右のたてわき二行にな
らび其外すいじんさつしき迄金銀をちりばめすでにしやさんと聞へけるおまへになれはよりともは
わにぐちてうど打ならし天長ちきう国土あんぜんの御いのりしばらくねんし給ひないしんに御ちやくざあ
れは御供のしよ侍ほうでんにひざをつらねてざし給ふさる程にはこわうはこかげにたちよりけんぶつし
て有けるがいづれかすけつねにて有らんときかまほしく思ひ供のそうにいち/\しだいに尋ねける此そうこ
たへて申やう君のひたりの一のざははたけ山のしげたゞ右の一ざはわだのよしもり中の一ざはかぢはら平
(十六オ)
三かげ時さてかうのひたゝれきたるこそ御身の一もん@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
はつと思ひいかにもして一かたなさしちがへいかにもならんと思ひまもりかたな@@@@@@@@@@@@@
のかゝりに立そいてうかゝひよるこそおそろしけれすけつねはやく見つけつゝあつはれあれなるわらんべのまな
こさしこそおそろしけれげに/\伊藤がまこ此山に有と聞たつねはやと思ひどうしゆくをちかつけ御山にか
はづが子有ときく何れのほうに候ぞどうじゆくすなはち此少人にて候ぞとはこわうがてを取出にけり
すけつねさればこそとおもひさらぬていにて御身はかはづ殿のしそくかや一まん殿はおとこに成てや。ましませ
らんそが殿はいとをしくあたり申かしらざるものゝなれ/\しく申と思ひ給ふな我こそ御身の父とはいと
こ也御へんたちにもしたしきは我ばかりたまにあふたるしるしとてくはい中よりあかきのつか@@@@@うつ
たるわきざし取出しはこわうにとらせけりはこわう請取とうにつらさのますふぜいかくたはかるくちおし
やと思へばせんごわきまへすわきざしひんぬきとびかゝるを同しゆくあはてゝいたきつくすけつねさしつ
たりと太刀にてをかけゝれは人々取付せんかたなく立のきけりかのはこわうがふるまひ見る人きく人おしな
へしといふ鳥はちいさけれ共とらを取あらをそろしのいせひやとみなしたをまいてぞかんしける
右此本者太夫直伝之本以正本ヲ無相
違写之令板行者也
元禄五年壬申初春吉日
通塩町
鎰屋新板
(十六ウ)


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