紀要論文

紀要論文

text

日本学報. 2023, 42, p. 49-87

日本語

text

2023-03-31

本論文は、明治から昭和初期にかけてカナダへの移民を多く送出した和歌山県三尾村における、占領期の人々の経験と記憶を考察する。先行研究に加え、公文書、新聞、雑誌記事、手記、筆者による聞き取り調査によって、占領軍メイドから「戦争花嫁」となった三尾村の女性の経験を明らかにした。1章では、三尾村の戦後史をまとめた。移民地カナダではなく、送出側の三尾村を起点に、終戦後の、カナダからの引揚、日本での生活、その後1950年以降、再びカナダに戻るという歴史を整理した。さらに、戦時下の三尾村での経験と帝国内の移動を包括的に論じた。2章では、カナダからの引揚者を中心に、占領期、占領軍労働に従事した人々の経験を明らかにした。とくに、三尾村の女性が占領軍メイドとして働いていたことから、同時代の「女中」と比較しながら、女性が労働の場において「使用」される家事労働の問題点を指摘した。また、占領期におけるジェンダーの不均衡な構造に着目し、占領軍労働に従事した移民について、「貢献」と「適応」という主体のありかたがみられることを提示した。3章では、占領軍メイドのなかには、職場で出会った進駐軍兵士と結婚し、渡米した女性がいることを明らかにした。聞き取り調査で語られた女性の経験と記憶を中心に、占領軍労働が出会いの場となったこと、戦前からの移民経験が「戦争花嫁」と密接に関わっていることを示した。また、占領軍メイドと「戦争花嫁」は「忘却」されてきた歴史であり、それぞれが重要な移動として、移民史や三尾村史においても含まれるべきであると指摘した。三尾村における占領期の占領軍労働と「戦争花嫁」の経験と記憶は、移民史、地域史、占領史、ジェンダー史の視点が折り重なる。多領域をまたがる事象について考察したことで、戦後史が不可視化してきたものを掘り起こした。

91309

占領下「アメリカ村」を生きた人々の経験と記憶 : 占領軍メイドから「戦争花嫁」へ

野田, 朝香

大阪大学大学院人文学研究科現代日本学研究室

日本語

2023-03-31

日本学報

42

49

87

https://hdl.handle.net/11094/91309