紀要論文

紀要論文

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大阪大学歯学雑誌. 2023, 67(2), p. 21-32

角野, 公紀

日本語

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2023-06-30

原著

末梢感覚神経を損傷すると種々の知覚異常が発症し、 それに伴いニューロンやその周囲のグリア細胞の動態 に変化が認められることが近年注目され、特に中枢ミクログリアと神経損傷後の疼痛との関連について研究 が盛んに行われている。ミクログリアに相当する末梢神経系の細胞については明らかにされていないが、ミク ログリアのマーカーである lonized calcium-binding adaptor molecule 1 (Ibal) を発現する細胞が感覚神経節に存在することは知られている。しかしながらIbal陽性細胞の機能や属性に関しては不明な点が多い。また軸索に損傷を受けると一次感覚ニューロンの細胞体やその周囲のサテライト細胞などのグリア細胞における各種遺伝子およびタンパクの発現が変化し、活動電位発生の閾値に影響を与えることが知覚異常の発症に関与していると考えられているが、末梢神経系における神経損傷後のグリア細胞の形態学的変化とこれらの分子の発現との関連については未だ不明な点が多い。そこで本研究では6週齢雄性ラットオトガイ神経の 神経結紮モデルと神経切断モデルを作製し、三叉神経節におけるサテライト細胞とIbal陽性細胞の動態について、形態学的検討及び免疫組織化学的検討を蛍光跟微鏡ならびに透過型電子顕微鏡を用いて行った。免疫組織化学にはIbal、単球系細胞のマーカーであるED1、サテライト細胞のマーカーであるsmall conductance Ca-activated K　channel 3 (SK3) に対する抗体を用いた。正常動物において、三叉神経節内ニューロン周囲に類円形で短い突起を持つIbal陽性細胞が認められた。これらのIbal陽性細胞はED1を共発現するが、SK3は発現しなかった。微細構造学的には複数のサテライ ト細胞がニューロンの全周を緊密に囲み、Ibal陽性細胞はサテライト細胞の外側の結合組織領域に位置していた。神経損傷後は、神経結紮モデル、神経切断モデルともに三叉神経節内の第3枝支配ニューロン領域において、Ibal陽性細胞がニューロン周囲に多数集積し、一部では長い突起を伸延させていた。微細構造学的には神経損傷後2週ではサテライト細胞とニューロンの間に間隙を認め、そこにサテライト細胞が突起を伸延させていた。結紮後2週ではIbal陽性細胞はサテライト細胞の外側細胞膜に沿うように突起を伸延させていた が、切断後2週ではIbal陽性細胞が損傷を受けたニュ ーロンとその周囲のサテライト細胞との間の間隙内に侵入し、ニューロンの細胞質を取り込んでいる像も観 察された。結紮後4週では一部のニューロンで細胞質の部分的な欠損と、その部分でサテライト細胞同士の結合の断裂を認めた。切断後4週では多くのニューロンで細胞死の像が認められ、損傷ニューロンを取り囲むサテライト細胞同士の結合も断裂していた。このようなサテライト細胞の結合断裂によって、ニューロン周囲の環境を維持しているイオンやサイトカインの流 出が起こり、知覚異常の発症に関与している可能性が考えられる。これらのことから、Ibal陽性細胞が細胞死したニューロンやサテライト細胞の貪食に関与する単球系の細胞であることが示された。一方貪食の対象となる細胞の残骸などの少ない神経結紮モデルでも、神経損傷後 初期にIbal陽性細胞数が増加し、サテライト細胞の外側に沿うように長い突起を伸延させていたことから、神経損傷後初期にはサテライト細胞との間で何らかの情報伝達を行っていると考えられる。以上のことから三叉神経節におけるIbal陽性細胞は免疫応答や貪食に関与する細胞であると考えられる。

97685

オトガイ神経損傷に伴う三叉神経節におけるグリア細胞の動態

角野, 公紀

大阪大学歯学会

日本語

2023-06-30

大阪大学歯学雑誌

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https://hdl.handle.net/11094/97685